■病気の頻度👑
「胸痛」を主訴に救急外来を受診した患者の原疾患の頻度に関する報告
【緊急性の高い病気】
・急性冠症候群:約10-15%
・肺血栓塞栓症:約1-2%
・急性大動脈解離:約0.5-1%
※その他の非心臓性・低リスク胸痛が約50-60%
■Red flags(危険なサイン)🚩
・突然発症、胸部の圧迫感、あごや肩や腕へ広がる痛み、労作(歩行など)による症状悪化
・突然発症、息切れ、呼吸困難、片足のむくみ、意識消失
・突然発症、引き裂かれるような痛み、移動する激痛
■考えるべきこと💡
・胸部違和感とともにRed flagsを有する場合、それは治療開始までに1分1秒を争う緊急疾患の症状かもしれない。
・Red flagsがなくても、治療の必要な病気があるかもしれない。
・救急外来か、循環器内科を標榜する医療機関へ。
■文献📚
・Foy AJ, et al, Med Clin North Am. 2015 Jul;99(4):835-47.
・Fanaroff AC, et al, JAMA. 2015 Nov 10;314(18):1955-65.
・Stein PD, et al, Chest. 1991 Sep;100(3):598-603.
・Hagan PG, et al, JAMA. 2000 Feb 16;283(7):897-903.
解説
「胸の症状」というと、漠然と「心臓の問題?これって実は重大な病気なのでは?」と不安があるかもしれません。
実際、心臓の症状は胸の症状として自覚されることが多いので、必ず医療機関を受診すべきでしょう。ひとまずは客観的なデータと確かな情報と冷静に向き合って、現状を把握しましょう。
タイトルを「胸の痛み」ではなく「胸部違和感」としたのは、致命的な疾患が必ずしも「痛み」と表現されるわけではないからです。
むしろ狭心症や心筋梗塞の患者さんは、「痛み」より、「胸が重い感じ」や「締め付けられる感じ」と訴えることが多いのです。
ちなみに「押して悪化する胸痛」は緊急性が低い場合が多いです。
さて、上記の頻度を見て、多いと思いますか、それとも大した頻度ではないでしょうか。
気をつけたいのは、これは「実際に救急外来を受診した患者さんのデータ」であり、また日本のデータでもないので、日本のようにお財布事情を大して気にせず気軽に救急外来を受診できるような環境では、症状の軽い患者さんも多く含まれて結果が変わりうると思われます。
そうだとしても、救急外来を受診した患者の10人に1人以上に命を脅かす病気が隠れているというデータは、不安を植え付けるには十分なインパクトがあるように思います。
Red flags(危険なサイン)はいくつかの緊急性の高い病気を想定しています。
特に「胸痛」に限れば「killer chest pain」として下記のような病気が知られています。
①急性冠症候群(ACS)
②肺血栓塞栓症
③急性大動脈解離
④緊張性気胸
⑤食道破裂
この中で比較的頻度の高い①から③を順に解説しましょう。
■急性冠症候群(ACS)
心臓の筋肉に酸素と栄養を運ぶ「冠動脈」という血管が、動脈硬化などの影響で急激に狭くなったり、血栓(血の塊)で詰まったりする病気です(細かくいうと「不安定狭心症」や「急性心筋梗塞」が含まれます)。高血圧症、脂質異常症、糖尿病を有する患者さんは動脈硬化が進みやすく発症しやすいと考えられています。
主な症状として、胸の激しい痛みや圧迫感、息切れ、冷や汗などが突然現れることがありますが、時には「みぞおちの痛み」や「肩・あごの違和感」として自覚される場合もあります。
心臓の血管が詰まると、その先の心臓の筋肉に血液が行き届かなくなり、時間の経過とともに筋肉の細胞が壊死(えし)してしまう可能性があり、それを契機に致死的な不整脈が出現し、最悪心肺停止に至ることもあります。突然死の原因として、この急性冠症候群は最多と言われているのです。
一度壊死した心臓の筋肉は元に戻りにくいため、一刻も早く医療機関で血管を広げるなどの適切な処置を受けることが重要とされています。治療開始が早いほど、心臓へのダメージを抑えられる可能性が高まるので「いつもと違う胸の苦しさ」を感じた場合は、決して我慢せず、すぐに救急車を呼ぶなど適切な受療行動をとることが推奨されます。
■肺血栓塞栓症
肺血栓塞栓症とは、主に足の深いところにある静脈にできた血栓が血流に乗って流れていき、肺の血管(肺動脈)に詰まってしまう病気です。長時間の移動やデスクワークなどで足を動かさない状態が続いた後に発症しやすく、一般に「エコノミークラス症候群」としても知られています。
主な症状としては、肺の血管が詰まって空気交換がうまくいかなくなるので突然の激しい息切れや呼吸困難が出現します。また胸の痛み、動悸などもあります。発症の前兆として、血栓による血流のうっ滞を反映して片方の足が急に腫れたり痛んだりすることもあります。
肺の血管が詰まると、体の中に十分な酸素を取り込めなくなるだけでなく、心臓から肺へ血液を送り出すことができなくなり、急激に血圧が低下するなど命に関わる深刻な状態に陥る可能性があります。
時間の経過とともに容体が急変するリスクがあるため、疑わしい症状が現れた場合は一刻も早く医療機関で適切な処置を受ける必要があるとされています。「急に息が苦しくなった」「片方の足がひどく腫れている」といった異変を感じた際は、我慢せず直ちに救急車を呼ぶなどの素早い対応が推奨されます。
■急性大動脈解離
急性大動脈解離とは、心臓から全身に血液を送り出す一番太い血管である「大動脈」の壁が、突然内側から裂けてしまう病気です。大動脈の壁は三層構造になっていますが、何らかの理由で最も内側の膜に亀裂が入り、そこから流れ込んだ血液の圧力によって壁が縦方向に剥がれて(解離して)しまいます。血圧が高い患者さんはそれだけ動脈壁にかかる圧力が強く発症しやすいと考えられています。
主な症状は、突然発症する「胸や背中、腰が引き裂かれるような激しい痛み」です。痛みの場所が、解離の進行とともに上から下へと移動することもあります。
大動脈が裂けると血管の壁が非常に薄くもろくなるため、破裂して大出血を起こす危険性が極めて高くなります。また、重要な臓器(脳や心臓、腎臓など)へ行く血管が巻き込まれて血流が途絶えると、脳梗塞や心筋梗塞などの臓器障害を合併し、命に関わる深刻な事態に陥る可能性があります。
発症から時間が経つほど死亡率が上昇すると言われているため、一刻も早い専門的な治療が必要不可欠です。「今までに経験したことがない激痛」が起きた場合は、決して様子を見ず、直ちに救急車を要請することが強く推奨されます。
結構こわい話をしてしまいました。
でもはじめの直感のとおり、胸の症状の裏に「重大な病気」が潜んでいることが分かりました。
Red flagsに当てはまるなら、治療開始までのスピードが大事な緊急疾患かもしれないので救急受診あるいは救急要請を考えましょう。
急がないにしても医療機関を受診して原因を調べるべきであり、その場合には循環器内科が望ましいと思われます。
注意点・免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医師の診断や治療に代わるものではありません。個別具体的な症状については、必ず医療機関にご相談ください。万が一、激しい胸の痛みなど緊急を要する症状がある場合は、直ちに救急車を要請してください。


コメント