「親の物忘れが増えてきた」「退院したら、一人での生活が急に難しくなった」——そんなとき、「介護保険」という言葉が頭に浮かんでも、実際に何をすればいいのかは分かりにくいものです。
制度としてどんなサービスがあるかは分かっても、いざ動こうとすると、どこに電話をかけるのか、申請してからどれくらいでサービスを使えるようになるのか、というところで立ち止まってしまいます。
この記事では、相談から利用開始までの具体的な手続きを、順を追って説明します。
この記事の要点
- 相談窓口は市区町村の介護保険担当窓口、または無料の総合相談窓口である地域包括支援センター。
- 申請は本人・家族だけでなく、ケアマネジャーのいる事業所や地域包括支援センターが代行できる。実際、申請全体の78.4%が代行で行われている(令和6年度実績)。
- 申請から認定までは、申請→認定調査→主治医意見書→一次判定→二次判定→認定・通知という流れで進む。
- 法定は申請から30日以内だが、主治医意見書の取得だけで平均17.8日かかることもあり、実際には1か月〜1か月半程度を見込んでおくと安心。
- 認定結果を待つ間も、「暫定ケアプラン」を使えば見込みの区分でサービスを先に利用できる。ただし見込みより低い認定が出た場合、超過分は自己負担になる。
- 認定には有効期間があり、更新の申請は有効期間が満了する60日前からできる。
それぞれ、順を追って説明します。
まず電話をかける先

相談先は、市区町村の介護保険担当窓口、または地域包括支援センターです。地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員(ケアマネジャー)を配置している総合相談窓口で、すべての市区町村に設置されています。相談に費用はかかりません。「介護保険を使ったほうがいいのかどうかもまだ分からない」という段階でも利用できます。実際にどのサービスが使えそうか、そもそも申請する段階なのかどうかも、この窓口で一緒に整理してもらえます。
申請できるのは、本人や家族だけではありません。居宅介護支援事業者(ケアマネジャーが所属する事業者)、地域包括支援センター、介護保険施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院)といった事業所・施設も、申請の手続きを代行できます(厚生労働省.介護保険法(平成9年法律第123号)第27条・第29条)。申請は本来、本人または家族が行うのが基本で、こうした代行はあくまで、体調や仕事の都合で対応が難しいときなどに頼れる手段という位置づけです。
「自分たちだけで書類をそろえて窓口に行かなければならない」というイメージを持っている方もいますが、実際には申請全体の78.4%が、こうした代行によって行われています(令和6年度実績)。初めての申請で分からないことが多いときほど、まず窓口に電話をかけて相談してみることが、遠回りに見えて近道になります。
すでにかかりつけの病院や、退院前の病院に医療ソーシャルワーカーが関わっている場合は、その担当者に相談することもできます。窓口が一つに決まっているわけではなく、今つながっている関係者から話を聞いてみるところから始めてよい、というのがこの制度の入り口です。
最初の電話の時点で、特別な書類をそろえておく必要はありません。何に困っているかがまだうまく言葉にできなくても、その状態を伝えるところから相談は始められます。
申請から認定までの流れ

申請から実際に区分が決まるまでは、次の6つの段階を経ます。
- 申請(市区町村の窓口へ申請書と被保険者証を提出。本人・家族・代行者のいずれでも可能)
- 認定調査(市町村の職員などが自宅等を訪問し、心身の状態や生活環境を調査)
- 主治医意見書(市町村が本人の主治医に依頼し、心身の障害の原因である病気やけがの状況について意見を求める)
- 一次判定(認定調査の結果をコンピュータで処理し、介護の必要度の目安を算出)
- 二次判定(保健・医療・福祉の学識経験者からなる介護認定審査会が、一次判定の結果と主治医意見書などをもとに審査・判定)
- 認定・通知(市町村が審査会の判定に基づいて認定し、結果通知書と被保険者証を郵送)
このうち認定調査は、市町村の職員や委託を受けた調査員が自宅などを訪ね、全国共通の調査票に沿って、心身の状態や日常生活の様子を聞き取るものです。本人だけで対応するのが難しい場合、日ごろの様子をよく知る家族が同席して答えることもできます。「ふだんできていること・できていないこと」を、実際の生活の場面に即して具体的に伝えられるかどうかが、この工程では大切になります。
このうち、認定調査と主治医意見書の2つは、申請した人が直接コントロールしにくい工程です。認定調査は市町村側の日程調整で訪問日が決まり、主治医意見書は市町村が医師に依頼してから返送されるまで待つことになります。
主治医意見書は、かかりつけ医がいることが前提になります。かかりつけ医がいない場合は、市町村が指定する医師の診察を受けることになるため、あらかじめかかりつけ医の有無を確認しておくと、手続きがスムーズです。逆にいえば、ふだん通っている病院やクリニックがあること自体が、申請の準備の一つになります。
認定にかかる期間
法律上は、申請のあった日から30日以内に結果を通知しなければならないと定められています。ただし、実際にはこの期間に収まらないこともあります。
| 項目 | 期間の目安 |
|---|---|
| 法定期限(申請から結果通知まで) | 30日以内 |
| 主治医意見書の所要期間 | 平均約17.8日 |
| 認定調査の所要期間 | 平均約11.1日 |
出典: 厚生労働省.介護保険法第27条第11項.厚生労働省.要介護認定について.社会保障審議会介護保険部会(第122回)資料4.をもとに作成(意見書・調査の所要期間は令和4年度下半期実績)
主治医意見書の取得だけで、法定期間30日の半分以上を占める計算になり、これは認定調査の所要期間より長く、申請から一次判定までに時間がかかる主な要因になっているとされています。そのあとに認定調査の結果と意見書を突き合わせる一次判定、介護認定審査会での二次判定という工程が続くことを考えると、実務上は法定日数ぎりぎり、あるいはそれを超えることも珍しくありません。
この期間の長さは、市町村の事務処理が遅いからというより、主治医意見書という、申請者以外の第三者(医師)の作業を経由する工程が間に入っていることが大きく影響しています。前の章で触れたとおり、かかりつけ医がはっきりしている状態で申請できると、この工程がスムーズに進みやすくなります。
「申請すれば30日で使える」と決めてかからず、1か月〜1か月半程度は見ておくくらいの気持ちでいると、実際の進み方とのずれが少なくなります。特に、退院のタイミングに合わせてサービスを使い始めたいときなど、期限が決まっている場合には、この期間の幅を踏まえて早めに動き出すことが大切になります。
なお、がんなどで心身の状態が数週間単位で急速に悪化していく場合には、ここまで見てきた「1か月前後」という通常のペースでの認定手続きが、実情に合わないことがあります。こうしたケースについては、厚生労働省が市町村に対して認定を速やかに進めるよう求める事務連絡をすでに出しており、状態の進行の速さに応じて認定を早める運用の検討も進められています。該当しそうな状態であれば、その旨を相談の際に伝えておくと、通常より急いだ対応をしてもらえる可能性があります。
認定を待つ間に使えるサービス
認定の結果が出るまでの間、何もできないわけではありません。見込まれる要介護度に応じてサービスを先に利用する、「暫定ケアプラン」という仕組みがあります。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すれば、この仕組みを使えるかどうかを含めて案内してもらえます。退院後すぐに訪問介護や福祉用具のレンタルが必要になるなど、認定結果を待つ余裕がない場面で使われることが多い仕組みです。
逆にいえば、急いでサービスを使う必要がなければ、認定結果が出てから利用を始めるという選び方もできます。暫定ケアプランは「必ず使わなければならないもの」ではなく、状況に応じて選べる選択肢の一つです。
ここで注意しておきたいのは、実際の認定結果が見込みより低く出た場合のリスクです。見込んでいた区分より軽い認定(あるいは非該当)になると、利用できる上限を超えた分の利用料は、あとから全額自己負担になります。「待っている間もサービスを使える」ことは安心材料である一方、見込みを軽めに見積もりすぎると、あとで自己負担が発生しうるということも、あわせて知っておくとよいでしょう。どの程度の区分を見込んでケアプランを組むかは、認定調査に立ち会ったケアマネジャーの見立てによるところが大きいため、このあたりの判断もケアマネジャーとよく相談しながら進めることになります。
認定の有効期間
要介護認定には有効期間があり、期限が来ると更新の手続きが必要になります。
| 申請の種類 | 原則の期間 | 設定される範囲 |
|---|---|---|
| 新規申請・区分変更申請 | 6か月 | 3〜12か月 |
| 更新申請 | 12か月 | 3〜48か月 |
出典: 船橋市.要介護認定の有効期間.横浜市.要介護認定について.をもとに作成
実際の期間は、心身の状態に応じて市町村がこの範囲内で個別に設定します。更新の申請は、有効期間が満了する60日前からできます。「一度認定を受けたら、あとはずっとそのまま」ではなく、期限が来るたびに手続きが発生する制度だと知っておくと、更新の連絡が来たときに慌てずに済みます。
更新の手続きも、新規申請のときと同じように、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談しながら進めることができます。認定結果通知書や被保険者証には有効期間が記載されているため、次の更新がいつ必要になるかは、そこで確認できます。
なお、表中の「区分変更申請」(有効期間の途中で心身の状態が変わったときに使う手続き)そのものについては、次の章で紹介する姉妹記事で詳しく説明します。
申請タイミングの考え方
「まだ大丈夫かもしれない」と様子を見ているうちに時間が過ぎてしまうことは、珍しくありません。ここまで見てきたとおり、申請から実際にサービスを使い始めるまでには、実質1か月前後かかることがあります。転倒や入院、体調の急変など、急にサービスが必要になる場面で申請すると、その間に空白が生じやすくなります。認定を待つ間の暫定ケアプランという手段はあるものの、それも見込みが外れれば自己負担のリスクが伴うことは、前の章で見たとおりです。
一方で、困りごとがまだ小さいうちに申請しても、特に不利益はありません。申請そのものに費用はかからず、認定の結果が「非該当」になったとしても、状態が変わればあらためて申請し直すことができます。「早すぎるかもしれない」と申請を控える理由は、制度の上では特にないということです。
とはいえ、実際に「今、申請すべきかどうか」を判断するのは簡単ではありません。本人がまだ困っていないと感じている場合や、家族の間で意見が分かれている場合もあるでしょう。ここは、この記事だけで決めようとせず、地域包括支援センターに相談しながら整理していく部分です。「申請する・しない」を決める前の、相談だけの電話でもかまいません。相談した結果、「今はまだ様子を見てよさそうだ」という話になることもあれば、「早めに動いたほうがよさそうだ」という話になることもあります。どちらの結論になっても、話をしたこと自体が無駄になるわけではありません。
相談するときに伝えるとよいこと
- 本人の心身の状態と、日常生活で困っていること、いつごろから・どんなときに困りごとが強くなるか
- ふだん介護に関わっている家族の状況(仕事との両立、対応できる範囲)
- かかりつけ医の有無
- サービスを使い始めたい時期の見通し(退院日など、期限が決まっているかどうか)
この記事だけで、申請すべきかどうかや今後の進め方を自己判断しないでください。実際にどう進めるとよいかは、本人の状態や家庭の状況によって変わります。
なお、認定によって要介護度がどう決まるか、要支援と要介護の違い、要介護2と3で何が変わるか、区分変更申請の仕組みについては、別記事「要介護認定はどう決まるのか」で扱っています。あわせてご覧ください。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- 厚生労働省.介護保険法(平成9年法律第123号)第27条・第29条.
- 厚生労働省.要介護認定はどのように行われるか.
- 厚生労働省.要介護認定について.社会保障審議会介護保険部会第122回資料4.
- 横浜市.要介護認定について.
- 船橋市.要介護認定の有効期間.
- 神戸市.要介護認定決定前に介護サービスを利用できますか(FAQ).
- 厚生労働省.地域包括支援センターについて.
本記事の内容は一般的な医学・制度情報であり、個別の診断や手続きの助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

