体調が急に悪くなった家族を前に、「これは救急車を呼ぶべきなのか、それとも自分で病院に連れて行くべきなのか」と、とっさに判断できず戸惑った経験がある人は少なくありません。
救急車は誰でも無料で呼べる公的な仕組みですが、近年は出動件数が増え、現場に到着するまでの時間も少しずつ延びています。
この記事では、救急車という仕組みがなぜあるのか、今どのような状況にあるのか、そして判断に迷ったときに実際に使える相談窓口を整理します。
この記事の要点
- 救急車は誰でも無料で呼べる公的な仕組み。ただし出動件数は増加傾向で、現場到着・病院収容までの時間が延びている。
- 令和5年は全国で664万人が救急搬送され、国民の19人に1人にあたり、また搬送された人の48.5%は入院加療を必要としない。
- 軽症でも重大な疾患が潜む可能性があるため一律に救急車の利用を制限するのではなく、本当に必要な人へ迅速に届ける仕組みづくりと検証が必要。
- 判断に迷ったときは、電話相談の「#7119」やアプリ「Q助」が使える。
- 【119番の目安】顔の歪み、ろれつが回らない、突然の激しい頭痛などがあるときは、迷わず119番を。
それぞれ、順を追って説明します。
救急車は「誰でも無料で呼べる」公的な仕組み
日本の救急車は、市区町村の消防機関が運営する公的なサービスです。海外では民間の搬送会社が主体になっている国もありますが、日本では消防が救急業務を一手に担う仕組みが取られています。救急隊員には、基礎的な応急処置を行う段階から、点滴や気道確保など高度な処置ができる「救急救命士」まで、段階的な資格制度があります。
もう一つの大きな特徴が、利用に法律上の自己負担がないことです。救急車を呼んでも搬送そのものに料金はかかりません(治療費・入院費は別途、通常の医療費として発生します)。誰もが費用を気にせず呼べるという意味で、この無料原則は公的なセーフティネットとして機能してきました。
一方で、この「誰でも無料で呼べる」という仕組みは、緊急性が高いとまでは言えない場面での利用も妨げません。次の章で見るように、救急要請そのものが年々増えており、この仕組みをどう維持していくかが実務上の焦点になっています。
増え続ける救急要請

総務省消防庁がまとめる「消防白書」には、全国の救急車の稼働状況が毎年公表されています。令和5年(2023年)のデータでは、全国の救急出動件数は763万8,558件で、前年から40万件以上、率にして5.7%増えました。搬送された人は664万1,420人で、前年より6.8%増加しています。これは国民のおよそ19人に1人が、1年間のうちに救急車で搬送されたことを意味します。
搬送の内訳をみると、急病によるものが67.7%と最も多く、次いで転倒や転落などの一般負傷が16.0%、交通事故が5.4%となっています。年齢別では、65歳以上の高齢者が搬送人員全体の61.6%を占め、一般負傷に限ると72.1%にのぼります。高齢化が進むなかで、救急要請の中心が高齢者に移ってきていることがうかがえます。
出動件数が増えれば、1件あたりに使える救急車の数は限られてきます。現場到着までの所要時間は全国平均で約10.0分、病院に収容されるまでの時間は約45.6分でした。いずれも新型コロナウイルスが流行する前の令和元年と比べると、現場到着で約1.3分、病院収容で約6.1分延びています。
搬送された人のうち、入院を必要としない軽症だった人の割合は48.5%にのぼります。搬送された人のおよそ半数は、結果として入院には至っていないということです。これは「軽症だから救急車を呼んではいけない」という意味ではありません。搬送された時点で軽症かどうかを判断するのは難しく、実際に検査や診察を受けて初めて軽症と分かるケースも多いためです。ただし、限られた救急車を症状の重い人にできるだけ早く届けるためには、この現状をどう考えるかが実務上の焦点になっています。
広島県東広島市の救急搬送記録を分析した研究では、入院を要しなかった18〜64歳の利用者を特徴ごとに分類したところ、平日深夜に発症した神経症状によるもの、火災に関連する外傷によるもの、転院搬送によるもの、自宅からの急性症状によるものなど、複数の異なるパターンに分かれることが分かりました。「軽症の救急車利用」とひとくくりにできるものではなく、背景はさまざまだということです。
搬送先が決まりにくい場面
救急車が現場に到着したあとも、搬送先の病院がすぐに決まるとは限りません。和歌山県内の救急搬送を1年間分析した研究では、搬送先の病院を4件以上照会しなければならなかった事案が全体の3.5%を占めていました。特に発生しやすかったのは週末や祝日の深夜帯で、平日の日中に比べて搬送先が決まりにくくなる可能性が約4倍高いという結果でした。
搬送先が決まりにくくなる背景には、夜間や休日は診療している医療機関自体が限られること、専門的な対応が必要な傷病では受け入れ可能な病院がさらに絞られることなど、複数の要因が重なっています。こうした事情は救急車を呼ぶ側からは見えにくいものですが、「救急車を呼んだのになかなか出発しない」という状況の背景として知っておく価値があります。
大阪市の救急搬送記録を調べた別の研究でも、搬送先が決まりにくくなる要因として、高齢であること、夜間や祝日・休日であること、意識を失っていることなどが挙げられています。
こうした問題に対しては、消防と病院のあいだで情報を共有する取り組みも進んでいます。大阪市消防局が2013年に導入した、救急隊と病院がスマートフォンで搬送先の状況を共有するシステムでは、導入前後の比較で、現場での搬送先選定が難航する割合が14.19%から10.93%に下がったと報告されています。
すぐに救急車を呼んでください
以下のような症状があるときは、ためらわずに119番してください。
大人
- 顔の片側が動きにくい、しびれる。
- ろれつが回らない、うまく話せない。
- 片方の目が見えない、視野の一部が欠ける。
- 突然の激しい頭痛
- 突然の激しい腹痛
- 手足に突然力が入らない、しびれる。
- 急な息切れ、呼吸が苦しい。
- 意識がない、もうろうとしている。
- けいれんが止まらない。
- 大量の出血を伴うけが
- 広範囲のやけど
子ども
- 頭痛を伴うけいれんがある。
- けいれんが止まらない、止まっても意識が戻らない。
- 水分がとれないほどの激しい嘔吐や下痢
- 意識がはっきりしない。
- 痛みの強いやけど、広範囲のやけど
これらの症状がないからといって、重い病気が隠れていないとは言い切れません。反対に、当てはまる症状がなくても、いつもと様子が違うと感じたときに救急車を呼ぶこと自体は間違いではありません。はっきりした症状がなく判断に迷う場合に使える窓口を、次の章で紹介します。
判断に迷ったときに使える窓口
判断に迷うのは、家族や周りの人の様子がおかしいときだけではありません。自分自身の体調が悪くなったときほど、痛みや動きにくさのなかで状況を客観的に把握しづらく、救急車を呼ぶべきかどうかを一人で決めにくいものです。そうしたときに使える窓口を紹介します。
| #7119(救急安心センター) | Q助(アプリ) | 119番 | |
|---|---|---|---|
| 手段 | 電話 | スマートフォンアプリ | 電話 |
| 対応する人・しくみ | 医師・看護師・相談員 | 症状を選ぶと自動で目安を表示 | 救急隊が出動 |
| 向いている場面 | 話しながら相談したいとき | まず自分で目安を確認したいとき | 明らかに緊急性が高いとき |
電話での相談 ── #7119

「#7119」は、医師・看護師・相談員が電話で症状を聞き取り、救急車を呼ぶべきかどうかの助言や、応急手当の方法、適切な医療機関の案内を行う仕組みです。総務省消防庁によると、令和5年11月時点で全国24地域、人口カバー率にして58.4%の地域で利用できます。
先に導入した地域の過去の実績では、いくつかの変化が報告されています。たとえば東京消防庁では、事業開始前(平成18年)から平成29年にかけて、救急搬送のうち軽症だった人の割合が60.3%から54.1%まで下がったとされています。また横浜市の相談窓口では、年間およそ11万5千件の相談のうち、72%にあたる約8万3千件で救急車以外の受診方法を案内したという報告もあります(平成28年度実績)。これらはいずれも導入前後を比較した調査によるもので、他の要因の影響を完全に切り分けられているわけではありませんが、電話相談という選択肢が実際に使われていることがうかがえます。
#7119は利用を減らすことだけを目的にした仕組みではありません。東京消防庁の実績では、相談を受けた約38万件のうち、約4万8千件は電話の時点で「今すぐ救急車が必要」と判断されています。遠慮して連絡をためらっていた人が、かえって早期の相談によって適切な対応につながる場合もあるということです。
お住まいの地域が対象かどうかは、総務省消防庁のウェブサイトで確認できます。
アプリでの確認 ── Q助
「Q助」は総務省消防庁が提供する無料のスマートフォンアプリです。当てはまる症状を画面上で選んでいくと、「今すぐ救急車を呼びましょう」から「引き続き、注意して様子をみてください」まで、4段階の目安が表示されます。あわせて、近くの医療機関や、タクシーなど救急車以外の移動手段を検索する機能もあります。電話をかけるほどではないけれど自分で目安を確認したい、というときに使いやすい方法です。
一部地域で始まっている新しい動き
救急要請の増加を受けて、一部の地域では新しい取り組みも始まっています。三重県松阪市では令和6年6月から、市内の三つの基幹病院で、救急車で搬送されても入院に至らなかった軽症の場合に、7,700円の「選定療養費」(紹介状を持たずに大きな病院を受診したときにかかる自己負担のしくみ)を負担してもらう制度を導入しました。紹介状を持参している場合や、実際に入院した場合、公費負担医療の対象者などは、この費用の対象外です。こうした制度は全国一律のものではなく、地域の実情に応じて個別に導入されているものです。
このように、判断に迷ったときの選択肢は一つではありません。自分の状況に合わせて、電話でじっくり相談するか、アプリでまず目安を確かめるか、選べるようになっています。
119番するときに伝えること
- 「救急です」という一言
- 住所 ── 市町村名から。わからなければ近くの目印になる建物や交差点
- 具合が悪いのは誰か ── 自分自身か、家族や周りの人か
- 症状 ── いつから、どんな症状か。わかれば意識や呼吸の有無
- 年齢 ── 正確でなくてよい、おおよそで十分
- 通報している人の名前と、あとで連絡が取れる電話番号
119番すると、通信指令員がこれらを順番に尋ねます。自分自身のことで具合が悪いなかでも、順を追って聞かれるので、あわてずに答えれば大丈夫です。緊急性が高いと伝わった時点で、すべてを聞き終える前に救急車は出動します。迷ったときは、この記事の内容だけで判断せず、#7119やQ助も活用してください。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- Tanigawa K, et al. Resuscitation. 2006 Jun;69(3):365-70. PMID: 16740355.
- 総務省消防庁. 令和6年版 消防白書. 第2章第5節 救急業務の実施状況. 2024.
- Ueno K, et al. Acute Med Surg. 2023 Dec;10(1):e911. PMID: 38094899.
- Kumagai M, et al. Nihon Koshu Eisei Zasshi. 2018;65(3):116-24. PMID: 29618709.
- Katayama Y, et al. BMJ Open. 2016 Oct;6(10):e013849. PMID: 27798040.
- Katayama Y, et al. JMIR Mhealth Uhealth. 2017 Sep;5(9):e134. PMID: 28893725.
- 東京消防庁. ためらわず救急車を呼ぶべき症状.
- 総務省消防庁. 救急安心センター事業(♯7119)をもっと詳しく.
- 京都府(消防広域化調整室). #7119の事業化に向けた検討(消防広域化に関する調査研究報告書 第3章). 平成30年度.
- 総務省消防庁. 全国版救急受診アプリ(愛称「Q助」).
- 松阪市. 三基幹病院における選定療養費について.
- 総務省消防庁. 救急車を上手に使いましょう ~救急車 必要なのはどんなとき?~.
本記事の内容は一般的な医学・制度情報であり、個別の状況に応じた救急要請の要否を判断するものではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

