親の物忘れが増えた、退院したあと一人での生活が難しくなった——そんな場面で、突然「介護保険」という言葉に向き合うことになった方は少なくありません。
制度は複雑で、パンフレットを読んでも「結局、何がどこまで使えるのか」がつかみにくいものです。
この記事では、細かい手続きに入る前に、まずサービス全体の地図を描くことを目指します。
この記事の要点
- 介護保険サービスは、大きく「居宅サービス」「施設サービス」「地域密着型サービス」の3系統と、それらをつなぐ「ケアプラン作成(居宅介護支援)」から成り立っています。
- 65歳以上は原因を問わず、40〜64歳は老化に伴う16種類の「特定疾病」による場合に限り、対象になります。
- 居宅サービスは、要介護度ごとに決まった1か月の利用上限の中で、訪問・通所・短期入所などを自由に組み合わせて使えます。
- 施設サービスを利用している間は、原則としてほかの居宅サービスを併用できません。
- 要介護度が上がるほど、利用できる上限額と施設の選択肢が広がります。上限は要支援1の月5,032単位から要介護5の36,217単位まで幅があります。
- サービスは自動的には始まりません。まず地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談することが、最初の一歩になります。
それぞれ、順を追って説明します。
要介護認定を受けている人の割合
まず、これがどれくらい身近なことなのかを見ておきます。
厚生労働省の令和5年度介護保険事業状況報告(年報)によると、令和6年3月末時点で、要介護・要支援の認定を受けている人は全国で708万人。65歳以上の被保険者(3,589万人)に占める割合(認定率)は19.4%で、この10年ほど緩やかに増え続けています。
ただし、この割合は年齢によって大きく異なります。65〜69歳で2.9%、70〜74歳で5.8%、75〜79歳で11.8%、80〜84歳で26.7%、85歳以上になると60.2%まで増えます(厚生労働省の介護給付費等実態統計月報と総務省の人口推計をもとに算出した割合)。「高齢者」とひとくくりにされがちですが、認定を受ける人が目立って増えるのは75歳を過ぎたあたりからです。
つまり、40〜74歳の間は介護保険サービスを使う人はまだ少数派ですが、75歳を境に、多くの人にとって現実味を帯びてくる制度だといえます。
介護保険サービスの対象
介護保険は、40歳になると全員が加入する公的な保険制度です。ただし、加入していることと、サービスを使えることは別です。実際にサービスを使うには市区町村に申請し、「要介護認定」を受ける必要があります。65歳の誕生日を迎えても、病気と診断されても、申請をしなければサービスは自動的には始まりません。この「申請がないと始まらない」という点は、介護保険を考えるうえでの出発点になります。
制度上、被保険者は年齢で二つに分けられています。40歳以上65歳未満の人と、65歳以上の人とでは、保険料の集め方だけでなく、サービスを受けられる条件も異なります。この違いを知らずにいると、「40代の親が病気になったのに、なぜ介護保険が使えないのか」といった戸惑いにつながることがあります。
対象になる条件は、年齢によって異なります。
| 第1号被保険者 | 第2号被保険者 | |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 65歳以上 | 40〜64歳(医療保険加入者) |
| サービスを利用できる条件 | 原因を問わず、要介護・要支援の認定を受ければ利用できる | 老化に伴う16種類の「特定疾病」が原因の場合に限る |
| 保険料 | 所得に応じて市区町村ごとに決まり、原則年金からの天引き | 加入している医療保険の算定方法に基づき決まり、医療保険料とあわせて納める |
出典: 厚生労働省・介護サービス情報公表システム.介護保険とは.をもとに作成
65歳以上(第1号被保険者)は、原因を問いません。転倒による骨折でも、加齢に伴う衰弱でも、認知症でも、要介護・要支援の認定を受ければ対象になります。日常生活に支障が出てきた理由がはっきりしなくても、申請すること自体は可能です。
40〜64歳(第2号被保険者)は、条件が絞られます。介護保険はもともと「老化に伴って介護が必要になること」に備える制度として設計されているため、この年代では、老化に伴う病気として国が定めた「特定疾病」16種類のいずれかが原因で介護が必要になった場合に限り、対象になります。特定疾病には、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血など)、回復の見込みがないと判断された段階のがん、関節リウマチ、初老期における認知症などが含まれます(全16種類は出典の介護保険法施行令に列挙されています)。交通事故によるけがなど、特定疾病に当たらない原因で介護が必要になった場合、40〜64歳の間は介護保険サービスの対象にはなりません。
サービスの3つの系統
介護保険サービスは、大きく3つの系統に分かれます。加えて、サービスを組み立てる「ケアプラン作成」という仕事があります。
| 系統 | 対象者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 居宅サービス | 要介護者(要支援者は介護予防サービス) | 自宅での生活を続けながら、訪問・通所・短期入所などを組み合わせて利用する |
| 施設サービス | 要介護者のみ | 施設に入所し、生活の場ごと介護を受ける |
| 地域密着型サービス | 要介護者(一部は要支援者も) | 事業所がある市区町村の住民だけが利用できる、小規模なサービス |
出典: 厚生労働省・介護サービス情報公表システム.介護保険の解説(サービス編).をもとに作成
居宅サービスは、自宅での生活を続けながら利用するサービス群です。訪問系だけでも、ホームヘルパーが日常生活の介助を行う訪問介護、看護師が医療的なケアを行う訪問看護、入浴の介助を専門に行う訪問入浴介護、理学療法士などが機能訓練を行う訪問リハビリテーション、医師や薬剤師が自宅を訪れて療養上の管理・指導を行う居宅療養管理指導と、いくつもの種類があります。日帰りで施設に通う通所介護(デイサービス)や通所リハビリテーション(デイケア)、短期間施設に泊まる短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)もこの系統です。車椅子や介護用ベッドを借りる福祉用具貸与、有料老人ホームなどで介護を受ける特定施設入居者生活介護も、居宅サービスに含まれます。要支援の人には、同じ考え方に基づく「介護予防サービス」(介護予防訪問看護、介護予防通所リハビリテーションなど)が用意されており、状態が重くなるのを防ぐことに重点が置かれています。
施設サービスは、施設に入所して生活の場ごと介護を受けるものです。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院の3種類があり、いずれも要介護1〜5の人が対象です。要支援の人は利用できません。
地域密着型サービスは、事業所がある市区町村に住む人だけが利用できる、比較的小規模なサービス群です。認知症の人が少人数で共同生活を送るグループホーム(認知症対応型共同生活介護)や、訪問・通い・宿泊を一つの事業所で柔軟に組み合わせる小規模多機能型居宅介護、夜間の巡回や急な呼び出しに対応する定期巡回・随時対応型訪問介護看護などが含まれます。
これらのサービスをどう組み合わせるかを決め、事業者と調整する仕事が居宅介護支援(ケアマネジメント)です。ケアマネジャーが本人・家族の希望と心身の状態を聞き取り、ケアプランを作成します。この費用は利用者の自己負担がなく、全額が保険から給付されます。
複数サービスの組み合わせ
居宅サービスは、要介護度ごとに決められた1か月の利用上限(区分支給限度基準額)の範囲内であれば、訪問介護と通所介護、福祉用具貸与などを自由に組み合わせて利用できます。たとえば「週に数回、通所介護に通って入浴と機能訓練を受けながら、自宅では福祉用具貸与でベッドを借りる」といった組み合わせ方ができ、生活のどこにどれだけ手を借りるかは、上限単位数の中でケアマネジャーと相談しながら決めていきます。上限を超えた分は全額自己負担になります。
一方、施設に入所すると、原則としてほかの居宅サービスは使えなくなります。施設サービスの中に日常の介護がすべて含まれるという制度上の建て付けのためです。「施設に入りながら、訪問介護も別に頼む」という利用の仕方はできません。
区分支給限度基準額には含まれない、別枠のサービスもあります。手すりの取り付けなど住まいの改修にかかる住宅改修費(上限20万円)と、ポータブルトイレなど特定の福祉用具の購入にかかる福祉用具購入費(年間10万円)です。これらは月々の上限とは別の枠で利用できます。
要介護度別サービスの目安
まず前提として押さえておきたいのは、要介護度は症状や病気の重さそのものを直接表す物差しではないということです。要介護度は「介護にどれくらいの手間がかかるか」を統計的に推計した指標(要介護認定等基準時間)であり、同じ要介護度でも、身体の動きにくさが中心の人と、認知機能の低下が中心の人とでは、実際の状態は大きく異なります。「要介護2だからこの程度」と一律に決まるものではなく、あくまで目安として捉える必要があります。
区分は、軽い順に要支援1・2(予防給付)、要介護1〜5(介護給付)の7段階です。予防給付は、状態がそれ以上重くならないようにすることに重点を置いたサービス群で、介護給付は、すでに日常生活のさまざまな場面で介助を必要とする状態を支えるサービス群、という位置づけの違いがあります。段階ごとに、1か月あたり利用できるサービスの上限(区分支給限度基準額)が単位で定められています。
| 区分 | 1か月の上限(単位) |
|---|---|
| 要支援1 | 5,032単位 |
| 要支援2 | 10,531単位 |
| 要介護1 | 16,765単位 |
| 要介護2 | 19,705単位 |
| 要介護3 | 27,048単位 |
| 要介護4 | 30,938単位 |
| 要介護5 | 36,217単位 |
出典: 厚生労働省.居宅介護サービス費等区分支給限度基準額及び介護予防サービス費等区分支給限度基準額(平成12年厚生省告示第33号).をもとに作成
単位数だけではイメージがつかみにくいため、要介護2(1か月の上限19,705単位)を例に、実際にどれくらい組み合わせられるかを示します。1か月を4週間とした概算の一例です。
| サービス | 単位数(1回) | 頻度(1か月) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 通所介護(通常規模型、7時間以上8時間未満) | 777単位 | 週2回×4週=8回 | 6,216単位 |
| 訪問介護(身体介護、20分以上30分未満) | 244単位 | 週2回×4週=8回 | 1,952単位 |
| 訪問看護(30分以上1時間未満) | 821単位 | 週1回×4週=4回 | 3,284単位 |
| 訪問リハビリテーション | 307単位 | 週2回×4週=8回 | 2,456単位 |
| 合計 | 13,908単位 | ||
出典: 厚生労働省.介護報酬の算定構造(社会保障審議会介護給付費分科会第239回参考資料2-1、令和6年4月改定版).をもとに作成
この単位数は、入浴介助加算や個別機能訓練加算といった各種加算を含まない、基本部分だけの目安です。実際の利用では、こうした加算や、月の日数(28〜31日)による回数の違いが加わるため、実際に使う単位数はこれより多くなります。また、この組み合わせは、退院直後や病状の経過観察、在宅でのリハビリを強化したい時期など、手厚い支援が必要な場合を想定した一例です。状態が落ち着いている時期には、これより少ない組み合わせで足りることもあります。特殊寝台などの福祉用具貸与や、月1回程度の短期入所生活介護(ショートステイ)を組み合わせる場合は、さらに単位数が上乗せされます。どのサービスをどれだけ組み合わせるかは、本人の状態や家族の状況に応じて、ケアマネジャーと相談しながら決めていきます。
段階が上がるほど、使える単位数が増え、施設サービスの選択肢も広がります。前述のとおり施設サービスは要介護1〜5の人だけが対象で、要支援の人は利用できません。また、特別養護老人ホームは2015年度以降、新規入所が原則要介護3以上に限られています(要介護1・2でも、やむを得ない事情があれば市町村の関与のもとで特例入所が認められる場合があります)。
介護保険制度は3年ごとに大きく見直されており、直近の見直しは2024年度、次の見直しは2027年度が予定されています。ここに挙げた数値も、将来変わる可能性があります。
相談窓口と最初の一歩
ここまでの内容は、あくまで制度の全体像です。実際に使えるサービスの種類や量は、要介護認定の結果や、住んでいる市区町村によって変わります。すべてを家族だけで判断する必要はありません。要介護認定の申請書類や訪問調査、認定が出るまでの日数といった手続きの詳細は、この記事では扱っていません。全体像がつかめたところで、次に必要なのは、この地図のどこから歩き始めるかです。
最初の一歩は、地域包括支援センターへの相談です。地域包括支援センターは、すべての市区町村に設置されている公的な相談窓口で、保健師・社会福祉士・ケアマネジャーが在籍しています。相談に費用はかかりません。要介護認定を受ける前の段階、つまり「介護保険が使えるかどうかもまだわからない」段階でも利用できます。介護保険の申請の仕方だけでなく、認定を受けたあとにどんなサービスをどう組み合わせるとよいかも、この窓口を起点に相談できます。
どの地域包括支援センターに相談すればよいかは、本人が住んでいる市区町村の役所の窓口で案内を受けられます。
相談窓口に伝えるとよいこと
次のようなことを整理して伝えると、その後の話が進めやすくなります。
- 本人の心身の状態と、日常生活で困っていること
- ふだん介護に関わっている人と、仕事との両立の状況
- 自宅での生活を続けたいか、施設も検討したいかという本人・家族の希望
この記事だけで、利用できるサービスや今後の進め方を自己判断しないでください。実際に何が使えるかは、要介護認定の結果や個々の状況によって変わります。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- 厚生労働省.令和5年度介護保険事業状況報告(年報).
- 厚生労働省.介護給付費等実態統計月報.
- 厚生労働省.介護保険法施行令(平成10年政令第412号)第二条.
- 厚生労働省・介護サービス情報公表システム.介護保険の解説(サービス編).
- 厚生労働省・介護サービス情報公表システム.介護保険とは.
- 厚生労働省.介護報酬の算定構造(社会保障審議会介護給付費分科会第239回参考資料2-1、令和6年4月改定版).
- 厚生労働省.居宅介護サービス費等区分支給限度基準額及び介護予防サービス費等区分支給限度基準額(平成12年厚生省告示第33号).
- 厚生労働省.居宅介護福祉用具購入費支給限度基準額及び介護予防福祉用具購入費支給限度基準額(厚生労働省告示).
- 厚生労働省.居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について(平成12年老企第42号).
- 厚生労働省.介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)参考資料.社会保障審議会介護給付費分科会第143回.
- 厚生労働省.地域包括支援センターについて.
本記事の内容は一般的な医学・制度情報であり、個別の診断や手続きの助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

