胃の調子が悪くて病院に行き、検査を受けたのに「異常はありません」「ストレスでしょう」と言われた。そう説明されても症状は続いていて、納得できない——。
そんな経験をお持ちの方に向けて、いまわかっていることを診療ガイドラインをもとに整理しました。
この記事の要点
- 「ストレス性胃腸炎」は正式な病名ではない。多くは機能性ディスペプシアとして整理される。
- 検査で異常がなくても、胃の動きや感じ方の仕組みに変化が起きていると考えられている。「気のせい」ではない。
- ピロリ菌が関わっている場合があり、感染が確認されれば除菌が選択肢に
- 不安やストレスとの関連は報告されているが、原因と証明されたわけではない。
- 体重減少・飲み込みにくさ・吐血や黒い便・貧血などがあるときは早めの受診を
それぞれ、順を追って説明します。
「ストレス性胃腸炎」という呼び名
「ストレス性胃腸炎」は、日本語で慣用的に使われている呼び方です。正式な疾患名として定められているものではありません。
紛らわしいのですが、「胃腸炎」という言葉が付いていても、ウイルスや細菌による急性胃腸炎とは別のものを指して使われることがほとんどです。
では何を指しているのか。一般に「ストレス性胃腸炎」と呼ばれている状態の多くは、医学的には次に説明する枠組みで整理されます。
機能性ディスペプシアの症状とタイプ
胃カメラなどの検査をしても、症状を説明できるような異常(潰瘍やがんなど)が見つからない。それなのに胃の症状が続く。こうした状態を機能性ディスペプシアと呼びます。ディスペプシアとは、みぞおちのあたりの不快な症状をまとめて指す言葉です。
4つの主な症状
ヨーロッパの2つの学会(欧州消化器病学会・欧州神経消化器病学会)が、22か国41名の専門家の合意としてまとめた文書があります。以下、これを「国際的な専門家会議」と呼びます。ここでは、主な症状として次の4つが挙げられています。
- 早期飽満感 — 食べ始めてすぐに満腹になってしまい、食事を最後まで食べられない。
- 食後膨満感 — 食べたあと、胃に食べ物が残っているように重く感じる。
- 心窩部痛(しんかぶつう) — みぞおちのあたりの痛み
- 心窩部灼熱感(しゃくねつかん) — みぞおちのあたりが焼けるように感じる。
「心窩部」は、みぞおち、つまり胸の下の中央のくぼんだあたりを指す医学用語です。
2つのタイプ
症状の出かたによって、大きく2つに分けられています。
- 食後愁訴症候群(PDS) — 食事に関連して症状が出るタイプ。食後の重さや、すぐ満腹になる感じが中心です。
- 心窩部痛症候群(EPS) — 食事とは関係なく、みぞおちの痛みや焼ける感じが出るタイプです。

どちらのタイプに当てはまるかによって、医師が考える対応が変わることがあります。受診の際、症状が食事と関係して出るかどうかを伝えられると、話が早く進みます。
なお、この状態は男性より女性に多いこと、そして日常生活の質への影響が小さくないことも報告されています。
症状の背景にある体の変化
「検査で異常がない」と言われると、「どこも悪くないのに自分が気にしすぎているだけなのか」と感じてしまうかもしれません。しかし、それは正確ではありません。
内視鏡で見える範囲に異常がないというだけで、胃の働き方や、感じ方の仕組みには変化が起きていると考えられています。
胃の動きと、感じ方の変化
これまでの研究で、次のような要素が関わっているとされています。
- 胃がうまく広がらない — 食べ物が入ってくると、通常、胃は緩んで広がります(適応性弛緩といいます)。これがうまくいかないと、少し食べただけで張った感じが出ます。
- 胃の中身が送り出されるのが遅い — 胃から十二指腸へ食べ物が移動するのに時間がかかると、もたれる感じにつながります。
- 内臓の感じ方が敏感になっている — 内臓知覚過敏といい、通常なら痛みとして感じない程度の刺激を、痛みや不快感として感じてしまう状態です。

3つ目は特に重要です。「刺激が強いから痛い」のではなく、「同じ刺激をより強く感じてしまう」という変化が起きている、という考え方です。
ピロリ菌の関与
胃の症状というと、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)を思い浮かべる方も多いと思います。
国際的な専門家会議でも、ピロリ菌の感染は、この状態に関わる要素のひとつとして挙げられています。感染の有無は、血液・呼気・便などを用いた検査で調べることができます。
そして、感染が確認された場合の除菌治療は、専門家のあいだで合意が得られた数少ない項目のひとつです(治療については後ほど改めて触れます)。
ただし、ピロリ菌に感染していれば必ずこうした症状が出るわけではなく、逆に感染していない方にも症状は起こります。自分が検査を受けたことがあるかどうかわからない場合は、受診の際に確認してみてください。
「脳と胃腸のやりとり」という捉え方
近年、この領域の呼び方が変わってきています。従来「機能性消化管障害」と呼ばれていた一群は、DGBI(脳腸相関の障害)という名称で整理されるようになりました。脳と消化管のあいだのやりとりがうまくいかなくなっている状態、という捉え方です。
実際、胃や腸から送られた信号を脳の側でどう処理するかという段階での変化も、関わっていると考えられています。
これは「脳の問題だから気のせい」ということではありません。むしろ逆で、胃だけを見ていても説明がつかない症状に、説明がつくようになってきたということです。
内視鏡では見えないレベルの変化
さらに細かいレベルの研究では、胃や腸の粘膜にごく軽度の免疫細胞の集まり(肥満細胞や好酸球といった細胞)がみられることが報告されています。これらの細胞から出る物質が、敏感になった神経を刺激し、内臓知覚過敏を生んでいるのではないかと考えられています。
また、免疫の活性化と、腸のバリア機能(腸の壁が余計なものを通してしまわないようにする働き)の低下が互いに影響し合い、そこに腸内細菌のバランスや心理的なストレス、食事の内容が関わってくる、という見方が示されています。
ただし、ここで挙げた内容は総説(これまでの研究をまとめた論文)で整理された考え方であり、因果関係が証明されたものではありません。また、この仕組みを狙った治療法は現時点で確立していません。あくまで「内視鏡で見えない変化が起きている」ことの説明として理解してください。
ストレスとの関係
「ストレス性」と呼ばれるくらいですから、ここは多くの方が気になるところだと思います。
国際的な専門家会議では、この状態になりやすい要因として、不安と急性胃腸炎にかかった経験があることの2つが、合意の得られた項目に挙げられています。また、心理的なストレスが関わる要因のひとつとして挙げられてもいます。
ただし、ここは慎重に読む必要があります。
これらは「関連がみられる」ということであって、「ストレスが原因でこの状態になる」と証明されたわけではありません。症状が続くこと自体がストレスや不安を生む、という逆向きの関係も考えられますし、両方に影響する別の要因があるのかもしれません。今回参照した文献は、いずれも因果関係を示すものではありません。
したがって、「ストレスをなくせば治る」と考えるのも、「ストレスに弱い自分のせいだ」と考えるのも、どちらも正確ではありません。
胃カメラの必要性

厚生労働省保険局医療課長. 「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の一部改正について(保医発0221第31号). 2013.(ピロリ菌感染疑いと内視鏡の関係)をもとに作成
「検査を受けていないから、はっきりしたことが言えないのでは」と気にされる方もいます。
日本消化器病学会の診療ガイドラインでは、内視鏡検査は全員に必須というわけではなく、ほかの病気が疑われる場合に行うという方向で整理が進められています。
国際的な専門家会議でも、消化器の専門医を受診した場合には内視鏡が必要とされる一方、後述する警告症状がない状態でかかりつけ医などを受診した場合には、必須ではなく任意とされています。
また、ピロリ菌感染が疑われる場合には、別の理由から内視鏡検査がすすめられることがあります。日本では、ピロリ菌の検査や除菌治療を保険診療で行うために、内視鏡検査で胃炎などの診断を受けていることが条件になっているためです。
つまり、症状や年齢、経過によって必要性が変わるということです。受けるべきかどうかは、実際に診察した医師の判断によります。気になる場合は、受診の際に「検査は必要でしょうか」と直接たずねてみてください。
こうした症状があるときは、早めに受診してください
次のような症状がある場合は、ここまで説明してきた状態とは別の病気が隠れている可能性があります。様子を見ずに、医療機関を受診してください。
- 体重が減ってきている(意図して減量しているわけではないのに)。
- 飲み込みにくい、または飲み込むときに痛みがある。
- 血を吐いた、または黒い便が出た。
- 貧血を指摘されている。
- 吐くことを繰り返している。
- おなかにしこりを触れる、または発熱が続いている。
- 食道がんや胃がんにかかった血縁者がいる。
- 年齢を重ねてから、初めてこうした症状が出た。
これらは、日本の診療ガイドラインが警告症状(アラームサイン)として挙げているものです。より詳しい検査を検討すべきサインとされています。
年齢の線引きの違い
「何歳から気をつけるべきか」については、一律の答えがありません。
日本消化器病学会の診療ガイドラインは、具体的な年齢を示さず「高齢になってからの新規発症」とだけ記しています。英国消化器学会のガイドラインは55歳以上を目安としつつ、胃がんが多い地域では40歳を超えていれば内視鏡検査を検討するとしています。米国の目安は60歳以上です。
ただし、英国のガイドライン自身が、この年齢の推奨について「根拠となる研究の確実性は非常に低い」と評価しています。数字が示されていても、その裏づけが強いとは限らないということです。
日本は胃がんが比較的多い国にあたるため、海外の数字をそのまま当てはめることはできません。年齢だけで線を引くのではなく、症状の内容とあわせて医師に判断してもらうものとお考えください。
警告症状の受け止め方
ここは誤解されやすいところなので、2つに分けてお伝えします。
ひとつは、これらの症状があること自体が、がんを意味するわけではないということです。米国の総説では、これらの警告症状はひとつひとつを見れば、悪性の病気である割合は1%未満と報告されています。過度に不安になる必要はありません。ただし、症状が重い場合(急に進む飲み込みにくさ、著しい体重減少など)や、複数が重なる場合には、詳しい検査を検討すべきとされています。
もうひとつは、逆に、これらの症状がないことが「大丈夫」の証明にはならないということです。日本の診療ガイドラインには、警告症状がないことは、ほかの病気の可能性を否定するものではないと明記されています。治療を始めても改善しない場合や、いったん良くなった症状がぶり返す場合には、あらためて検査を検討することが勧められています。
治療の選択肢
治療の選択肢についても簡単に触れておきます。ただし、どの治療が適しているかは、症状のタイプや経過、ほかにお持ちの病気によって変わります。以下は「こうした選択肢がある」という紹介であり、特定の薬をおすすめするものではありません。
日本の診療ガイドラインでは、まず試される治療として、胃酸の分泌を抑える薬、アコチアミド(胃の動きに関わる薬)、六君子湯(漢方薬)が挙げられています。これらで十分な改善が得られない場合には、抗不安薬やほかの消化管の薬、ほかの漢方薬が次の段階として挙げられており、そこまでで反応しないものは難治性として区別されています。
国際的な専門家会議では、先ほど触れたピロリ菌の除菌と、胃酸を抑える薬(PPI)については合意が得られた一方、それ以外の治療については専門家のあいだで意見がまとまりませんでした。
ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。日本のガイドラインでは、個々の推奨について「エビデンスの確実性が低い、あるいは非常に低い」とされている項目が少なくありません。これは、治療の効果を確かめる質の高い研究がまだ十分に積み上がっていない、という意味です。
「この薬を飲めば治る」と言い切れる段階にはありません。実際の治療は、症状の出かたを医師に伝えながら、合うものを探していく形になることが多くなります。
受診前の状況整理
ここまで見てきたように、検査で異常が見つからないからといって、症状に説明がつかないわけではありません。「気にしすぎ」で片づけてしまう必要はないということです。
一方で、この記事だけで自己判断をしないでください。症状の原因は、年齢や持病、飲んでいる薬によって変わります。同じ「みぞおちの痛み」でも、対応がまったく異なることがあります。
胃の不調が続いているなら、一度医療機関を受診し、いまの症状を医師に伝えてください。その際、次の3つを整理しておくと話が早く進みます。
医師に伝えること
- 症状が食事と関係して出るかどうか
- いつから続いているか
- ピロリ菌の検査を受けたことがあるか
この記事は、診察室で医師と話すための材料としてお使いいただければと思います。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。以下はいずれも全文が無料で公開されている文献です。
- Miwa H, et al. J Gastroenterol. 2022 Feb;57(2):47-61. PMID: 35061057.
- Wauters L, et al. United European Gastroenterol J. 2021 Apr;9(3):307-31. PMID: 33939891.
- Vanuytsel T, et al. Gut. 2023 Apr;72(4):787-98. PMID: 36657961.
- Black CJ, et al. Gut. 2022 Sep;71(9):1697-723. PMID: 35798375.
- Mounsey A, et al. Am Fam Physician. 2020 Jan;101(2):84-8. PMID: 31939638.
- 厚生労働省保険局医療課長. 「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の一部改正について(保医発0221第31号). 2013.
本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

