目覚ましで起きた瞬間から、もう体が重い。休日は昼まで眠ってしまう。それでも月曜になると、また同じ朝が来る——。そんな毎日が続いているとき、多くの方が「自分の気合いが足りないのだろう」と考えます。
眠りが足りないと体で何が起きるのか、病気のリスクはどう変わるのか、何をすればよいのか。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」と国内外の研究をもとに整理します。
この記事の要点
- 日本の成人で7時間以上眠れているのは、およそ4人に1人。6時間未満が4割を超える。
- 眠りが足りないとき、最初に落ちるのは「注意を保つ力」。次に崩れるのは「前向きな気持ち」で、判断力や論理的思考はむしろ後。
- 短い睡眠は、糖尿病や心臓の病気などの起こりやすさと関連。ただし「睡眠不足が原因」と証明されたわけではない。
- 目安は1日6時間以上。ただし時間と同じくらい、「睡眠で休養がとれた」という感覚が大事だとわかってきている。
- 治療できる原因があるかどうかを医療機関で相談することが重要。
- 受診の目安:生活を整えても、寝つけない・途中で目が覚める・日中の眠気が続く状態が改善しないとき。いびきや無呼吸を指摘されたときも一度相談を
それぞれ、順を追って説明します。
日本人の睡眠時間の現状
まず、自分がどのあたりにいるのかを確かめるところから始めます。令和5年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の1日の平均睡眠時間は次のような分布でした。

6時間未満の人が41.2%(男性38.5%、女性43.6%)。逆に、7時間以上眠れている人は24.3%しかいません。 4人に1人です。
同じ調査で「睡眠で休養が充分とれていますか」と聞いたところ、「あまり」「まったくとれていない」と答えた人は25.0%。年代別では30代33.9%、40代34.7%、50代35.4%で、働き盛りの世代では、およそ3人に1人にのぼります。
ここで大事なことを一つ。同じ状態の人が多いことは、「だから大丈夫」も「だから異常」も意味しません。 必要な睡眠時間には個人差があり、6時間未満で足りる人も、8時間以上必要な人もいます。この記事の数字は、自分の状態を測るための物差しとして使ってください。
睡眠不足で体に起きる変化
睡眠が足りないときに変化するのは、眠気だけではありません。何がどの順に崩れるのかを見ていきます。

最初に落ちる「注意を保つ力」
48時間未満の断眠を扱った70の論文・147の認知課題をまとめた解析では、認知機能の種類によって低下の大きさが大きく異なっていました。「効果量」は影響の大きさを表す指標で、マイナスが大きいほど成績が落ちたことを意味します。単純な注意を持続させる力の効果量は-0.776だった一方、推論課題の正答率の低下は-0.125にとどまり、統計的な差は見られませんでした。
つまり、先に崩れるのは判断力や論理的思考ではなく、注意を切らさずに保つ力のほうです。会議の内容は理解できるのに、途中で意識が飛ぶ。読んだ行をもう一度読み直す。そうした形で表れます。ただしこの研究が扱ったのは「まったく眠らない」状況で、毎日少しずつ足りない状態と同じとは限りません。
認知より大きく崩れる「気分」
64の研究・241の効果量をまとめた解析では、もっと大きな変化が気分に表れていました。しかも、下がり方には偏りがありました。ポジティブな気分(楽しい・意欲がある)の効果量は-0.94だった一方、ネガティブな気分(いらいら・落ち込み)は0.45にとどまっています。
注目したいのは、この非対称さです。「嫌な気分が増える」ことよりも、「楽しい」「やってみよう」という前向きな気持ちが失われることのほうが、はるかに大きく起きています。寝不足が続いたとき、はっきり不機嫌になるより先に「何をしても面白くない」という形で表れる、ということです。
食欲の増加と、血糖処理の低下
実験的に睡眠を制限した研究をまとめると、1日の摂取エネルギーが約253kcal増えることが報告されています。同時に、インスリン感受性——血糖を下げるホルモンの効きやすさ——が全身で25%低下したという実験結果もあります。
さらに、総睡眠時間を変えずに深い睡眠だけを削っただけでも、血糖の処理が悪くなったという報告もあります。時間さえ確保すればよい、という話ではありません。
病気のリスクとの関連
読む前に前置きを2つ。これから示すのは「関連」であって「原因」ではありません。いずれも観察研究で、睡眠不足が病気を引き起こすと証明したものではありません。また、示されているのは倍率(相対リスク)です。もともとの起こりやすさは年齢や持病によって違うので、「1.5倍」が誰にとっても同じ意味を持つわけではありません。

リスクがいちばん低い睡眠時間
日本・中国・シンガポール・韓国の32万人あまりを解析した研究では、全死因の死亡、心血管疾患による死亡のいずれについても、関連がいちばん低くなるのは7時間の睡眠でした。最もリスクが高かったのは10時間以上眠っている群で、死亡のしやすさは男性1.34倍、女性1.48倍です。
病気ごとに見ても同じ形です。米国心臓協会の科学声明では、短い睡眠は2型糖尿病(相対リスク 1.28)・冠動脈疾患(1.48)・脳卒中(1.15)と関連し、長い睡眠でも2型糖尿病1.48・脳卒中1.65と関連していました。
ここで大切なのは、「長く眠っている人は睡眠を削ったほうがよい」という意味ではないことです。長時間睡眠については、病気が先にあって睡眠が長くなっている可能性を否定できません。長く眠らないと体がもたないと感じているなら、削るのではなく、その理由を調べるほうが理にかなっています。
また、睡眠時間とは別に、不眠の症状そのものがリスクと関連することも示されています(寝つきの悪さと2型糖尿病で1.57、不眠症状と心血管疾患で1.45)。「何時間眠ったか」だけでなく「どう眠れているか」も見る必要がある、ということです。
日本人を対象とした研究
日本の睡眠ガイドが引用している国内の研究です。
- 男性労働者2,282人を14年間追跡した調査で、1日6時間未満の人は、7〜8時間の人に比べて心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患の発症リスクが4.95倍でした。
- 男性労働者およそ4万人を7年間追跡した調査で、1日5時間未満の人は5時間以上の人に比べ、肥満の発症が1.13倍でした。
いずれも男性労働者を対象とした調査です。女性や、働いていない方にそのままあてはめることはできません。
こうした症状があるときは、早めに受診してください
次のような状態があるときは、生活の工夫を続ける前に、一度医療機関に相談してください。
一度、医療機関に相談を
- いびきを指摘される。眠っている間に呼吸が止まっていると言われたことがある。
- 十分な時間眠っているのに、日中の強い眠気が続き、生活に支障が出ている。
- 寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めてしまう状態が長く続いている。
- 気分の落ち込みや意欲の低下が、睡眠の問題と一緒に続いている。
- 脚のむずむずする不快感や違和感で寝つけない。
これらにあてはまる=重い病気、ということではありません。 睡眠ガイド2023では、「睡眠に関する病気が背景にあるかもしれない」と考えるためのサインとして挙げられています。いびきも日中の眠気も、それ自体はありふれた症状です。むしろ調べれば原因がわかり、治療できる可能性があるという意味を持ちます。
一方で、あてはまらないから大丈夫、とも言い切れません。 同じガイドは、十分な時間眠っているつもりでも、睡眠休養感の低下や日中の眠気が続くなら受診をと書いています。
睡眠を立て直す手がかり
ここまでの内容をふまえて、実際に手をつけられることを3つに分けて挙げます。
まずは「6時間以上」という目安
厚生労働省の睡眠ガイド2023は、成人に向けて3つのことを挙げています。
- 個人差はあるものの、1日6時間以上を目安に睡眠時間を確保する。
- 食事や運動などの生活習慣、寝室の環境を見直して、睡眠休養感(睡眠で休養がとれた感覚)を高める。
- 睡眠の不調や睡眠休養感の低下があるときは、生活習慣の改善だけでなく、背景に病気がある可能性も考える。
必要な量には個人差があります。日中の眠気と睡眠休養感を手がかりに、自分に必要な量を探るという考え方です。
時間と同じくらい効く「休養感」
とはいえ、仕事や育児の事情で睡眠時間を延ばせない方も多いはずです。そこで手がかりになるのが睡眠休養感です。米国で40〜64歳の就労者を対象とした研究では、睡眠時間が短い人は全死因の死亡リスクが上がっていました。ところが、睡眠で休養がとれている場合には、リスクの上昇がみられませんでした。 日本の追跡研究でも、睡眠休養感が高いことは心筋梗塞・狭心症・心不全の発症が少ないことと関連していました。
睡眠休養感を下げる要因として、睡眠ガイド2023は次を挙げています。
- 就寝直前の夕食や夜食、朝食を抜くこと
- 運動不足
- 日中の仕事などによるストレス
- 糖尿病・高血圧・がん・うつなどの慢性的な病気
- 寝室の環境、カフェイン・アルコール・ニコチンの習慣的な摂取
時間を増やせないときに、まず手をつけられるのはこちら側だと言えます。
週末の寝だめの効果
平日の不足を休日に取り戻す「寝だめ」についても研究結果があります。40〜64歳を対象とした研究では、週末の寝だめが効くかどうかは、平日の睡眠時間次第で変わるというものです。

平日に6時間以上眠っている人では、約1時間の寝だめが全死因の死亡リスクを下げていました。 ところが、平日6時間未満の人では、寝だめが全死因の死亡リスクをむしろ有意に上げていました。 また、2時間を超える寝だめは、平日6時間以上眠っている人でもリスクを下げませんでした。
休日に起床時刻が大きくずれると体内時計が乱れ、毎週末に時差のある土地へ旅行しているような状態(社会的時差ボケ)になります。睡眠ガイド2023は、週末に長く眠らないと持たないこと自体が、平日の睡眠が足りていないサインであると整理しています。取り戻すより、平日の習慣を見直すほうが先だという考え方です。
治療できる睡眠の問題
生活を整えても改善しないとき、次に考えることを整理します。
生活の工夫だけでは解決しない不眠
慢性的な不眠症に対して、米国睡眠医学会の診療ガイドラインは、認知行動療法(CBT-I)を強く推奨しています。考え方と行動の習慣に働きかける治療で、薬を使わない方法です。同じガイドラインは、睡眠衛生指導を、それだけを取り出した治療として使わないことも推奨しています。241の無作為化比較試験・3万1千人あまりを解析した2024年の研究でも、睡眠衛生教育は必須の構成要素ではありませんでした。
これは「生活の工夫に意味がない」という話ではありません。工夫を続けても改善しないとき、それはあなたの努力不足ではなく、別の手立てが必要な状態かもしれないということです。日本では認知行動療法を提供できる施設が限られるのが実情ですが、まず相談してみる価値はあります。
見つかれば治療できる原因
睡眠ガイド2023は、不眠として片づけられやすい、別の原因を挙げています。
- 閉塞性睡眠時無呼吸 — 眠っている間に気道がふさがり、呼吸が止まる状態です。肥満が最大の危険因子ですが、顎が小さい、顎が後ろに引けている、首が短いといった体格でも起こります。太っていないから大丈夫、とは言えません。
- むずむず脚症候群 — 安静時に脚の不快感が出て寝つけなくなります。寝つきの悪い不眠と間違われやすい状態です。
- 周期性四肢運動障害 — 眠っている間に脚が繰り返し動きます。自覚症状が乏しく、中途覚醒型の不眠と間違われやすい状態です。
- うつなどの精神的な不調 — 不眠が最初の症状として現れることがあります。不眠だけを治療しても十分に改善しないことがあるため、気分の変化があるなら一緒に伝えてください。
相談してよい段階の目安
米国のデータですが、不眠症のある人のうち、実際に診断を受けているのは6%にとどまると報告されています。「これくらいで病院に行っていいのだろうか」と迷っている段階は、相談してよい段階だと考えてください。
受診前の状況整理
眠れないことを相談するとき、何が起きているかを絞り込む手がかりになるのは、次の3つです。
医師に伝えること
- 平日と休日それぞれの、床に入る時刻と起きる時刻。実際に眠れている時間 — 足りていない量と、休日とのずれの大きさが分かります。
- 寝つけないのか、途中で目が覚めるのか、朝早く目が覚めるのか。いつから続いているか — タイプと期間によって、考える病気が変わります。
- 日中の眠気の程度と、いびきや無呼吸を指摘されたことがあるか — 自分では分からない部分なので、同居している方に聞いておくと役に立ちます。
あわせて、飲んでいる薬やサプリメント、カフェイン・お酒・たばこの習慣、気分の落ち込みの有無、直近の健診結果も伝えられると、話が早く進みます。就床時刻と起床時刻を1〜2週間だけメモして持っていくと、記憶に頼らずに話せます。手帳の隅で構いません。
なお、準備は診察をより良くするための道具であって、義務ではありません。 何も持たずに行っても、医師のほうから順に聞いていきます。
そして、この記事だけで自己判断をしないでください。 気になることがあれば、そのまま医療機関にお伝えください。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- Lim J, et al. Psychol Bull. 2010 May;136(3):375-89. PMID: 20438143.
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- 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 2024.
- 厚生労働省. 令和5年国民健康・栄養調査報告. 第3部 生活習慣調査の結果. 第71表・第72表.
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