胸が痛い、苦しいとき — 何が起きているのか、どんなときに急を要するのか

「痛い」と言おうとして、うまく言葉が出てこなかった。実際に感じているのは、痛みというよりも重苦しい、締めつけられるような感覚だった。

医学的にも、心臓や血管の病気で起きる胸の症状は、必ずしも「痛み」という言葉で表現されるとは限りません。だからこそ、痛みの強さだけで「大丈夫かどうか」を判断してしまうと、見落としが起きることがあります。

この記事では、なぜ「胸痛」ではなく「胸部不快感」という言葉が使われるのか、実際に救急外来を受診する人のどれくらいが危険な病気なのか、そして見逃してはいけない病気にはどんなものがあるのかを、国内の学会ガイドラインをもとに整理します。

この記事の要点

  • 「胸痛」より医学的に正確とされる「胸部不快感」。圧迫感・絞扼感・重苦しさなど、痛みとは違う言葉で表現される症状も多い。
  • 胸の症状による救急外来受診者のうち、半数は心臓が原因ではない。近年の系統的レビューでは、急性冠症候群(心筋梗塞を含む)と診断されるのは1割未満とされる
  • 心筋梗塞(急性冠症候群)は治療開始までの時間が予後を左右。国内の学会ガイドラインの目標は「90分」ではなく「60分以内」
  • 急性大動脈解離は、発症後1時間経過するごとに致死率が1〜2%ずつ上昇
  • 肺塞栓症は、未治療の死亡率が約30%。適切な治療で2〜8%まで低下
  • 【受診の目安】突然の激しい胸の痛みや、他の症状(息切れ・冷や汗・意識がもうろうとするなど)を伴う場合は、救急車の要請が推奨されています。それ以外で迷うときは、♯7119(救急安心センター)への相談も選択肢になります。

それぞれ、順を追って説明します。

目次

「胸痛」ではなく「胸部不快感」と呼ぶ理由

まず、なぜこの記事で「胸部不快感」という言葉を使うのかから説明します。

日本循環器学会などの合同研究班による急性冠症候群ガイドラインには、こう記されています。「急性冠症候群患者の胸痛の性状は、前胸部や胸骨後部の重苦しさ、圧迫感、絞扼感、息がつまる感じ、焼け付くような感じと表現されることが多いが、単に不快感として訴えられることもある」。さらに、「非定型的な症状や軽微な症状が重篤な病気の症状であることもまれではなく、症状の性状だけで重篤な病気を除外してはならない」とも述べられています。

これは日本に限った話ではありません。米国心臓病学会の専門家合意文書も、「chest discomfort(胸部不快感)」のほうが医学的には正確な表現だとしたうえで、臨床現場で定着している「chest pain(胸痛)」という言葉を、あえてそのまま使い続けていると述べています。この文書には、圧迫感・絞扼感・重苦しさ・灼熱感として表現される症状は、急性冠症候群と矛盾しない——つまり、その可能性を考えるべき所見だとも記されています。

救急外来を受診した人の、実際の内訳

胸の症状で救急外来を受診した人のうち、実際にはどれくらいが危険な病気なのでしょうか。

先ほどの急性冠症候群ガイドラインには、急性の胸痛で救急外来に搬入された患者の内訳が示されています。それによると、ST上昇型心筋梗塞が5〜10%、非ST上昇型心筋梗塞が15〜20%、不安定狭心症が10%、他の心臓の病気が15%を占める一方で、半数は心臓が原因ではない病気でした。ただし、これは国内ガイドラインが複数の海外研究をまとめた数字です。救急外来を受診した胸痛患者を対象とした近年の系統的レビューでは、急性冠症候群(心筋梗塞と不安定狭心症をあわせたもの)と診断されるのは1割未満にとどまるとも報告されています。報告によって幅はあるものの、半数は心臓が原因ですらないという点は共通しています。

非心臓性の原因の一部は、肋骨や肋間の筋肉の炎症など、いわゆる筋骨格系の痛みです。世界的な報告をまとめた解析では、これだけで胸の症状全体の16%を占めるとされています。

多くは危険な病気ではありません。ただし、その少数を自分だけで見分けることは簡単ではありません。だからこそ、何を見逃してはいけないのかを知っておく価値があります。

急を要する代表格 — 心筋梗塞と大動脈解離

胸の症状のなかで、とくに「時間」が生死を分けるとされているのがこの2つです。

病院スタッフが急ぐべき理由を知っていても、患者側が知っておかなければベストな治療を受けることは叶いません。なぜなら、病院到着までの時間が疾患の予後(病状の経過)に大きく影響するからです。

心筋梗塞と急性大動脈解離における時間と生死の関係を示す図解。心筋梗塞は転院搬送30分以内で死亡率2.8%、30分超で6.0%、診断から治療まで60分以内が目標。大動脈解離は発症後1時間経過するごとに致死率が1〜2%上昇し、治療しなければ48時間以内に致死率約50%。
出典: Yamaguchi J, et al. Circ Rep. 2022 Feb 25;4(3):109-115. PMID: 35342837. / 日本循環器学会ほか合同研究班. 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版). 2020. のデータをもとに作成

心筋梗塞(急性冠症候群) — 「90分」ではなく「60分」

心筋梗塞は、心臓を養う血管(冠動脈)が詰まって血液が届かなくなる病気です。治療は、詰まった血管をカテーテルで広げて血流を再開させることが中心になりますが、発症からその治療までの時間が短いほど、その後の経過が良いことが分かっています。

国内では長らく、病院に到着してから治療(バルーンによる血流の再開)までを90分以内にすることが目標とされてきました。しかし国内の大規模研究(CREDO-Kyoto AMIレジストリー)では、この90分を達成できたかどうかだけでは、長期的な経過に差がみられませんでした。一方で、発症から3時間以内という早い段階で血流を再開できた症例では、良好な経過が得られていました。発症から治療までの時間(総虚血時間、症状に気づいてから治療が始まるまでの合計時間)が長くなるほど、経過は悪化していきます。

そのため、国内の学会ガイドラインは、「来院から90分以内は、あくまで最低限守るべきラインであり、目標ではない」としたうえで、「診断から治療までは60分以内を目標とすべきである」と明記しています。

日本人のデータでも、時間の短さが結果を左右することが確認されています。転院搬送が必要だった心筋梗塞の患者のうち、搬送にかかった時間が30分以内だった人の死亡率は2.8%だったのに対し、30分を超えた人では6.0%でした。

心筋梗塞のなりやすさには体質や生活習慣も関わります。国内の学会ガイドラインは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常症(高コレステロール血症)・家族歴の5つを、日本人の心筋梗塞と関連する代表的な要因としています。家族歴は、近親者が若い年齢(目安として男性55歳未満・女性65歳未満)で心筋梗塞になっている場合に特に大きな意味を持ちます。

急性大動脈解離 — 1時間ごとに上がる致死率

急性大動脈解離は、大動脈の壁が引き裂かれるように損傷する病気です。「経験したことのない激しい痛みが、突然起きる」のが典型的とされ、「鋭く引き裂かれるような痛み」と表現されることが多いとされています。ただし、この病気の6%程度は痛みを伴わないともされており、痛みの有無だけで判断できるものではありません。

発症の頻度は、地域の調査で10万人あたり年間2.6〜10人程度と報告されています(調査により幅があります)。

この病気も、時間が経つほど致死率が上がることが分かっています。国内の学会ガイドラインには、「発症後、1時間経過するごとに致死率が1〜2%ずつ上昇する」とされ、手術などの治療が行われなければ、48時間以内に約半数が亡くなるとされています。実際、東京都内の調査では、病院に到着する前に亡くなる人が6割以上、24時間以内に亡くなる人は93%にのぼるという報告もあります。

心筋梗塞の「60分」、大動脈解離の「1時間ごとに1〜2%」——どちらも、時間の経過が命を左右することを示す数字です。ただし、痛みが強いほど危ないという単純な話ではありません。鑑別の軸になるのは、痛みの強さそのものよりも、「突然発症したかどうか」「他の症状を伴うかどうか」です。

そのほかに見逃せない病気

心筋梗塞・大動脈解離ほど頻度は高くありませんが、同じように注意が必要な病気がほかにもあります。

肺塞栓症 — 治療の有無で変わる死亡率

肺塞栓症は、脚などにできた血のかたまり(血栓)が肺の血管に詰まる病気です。国内の学会ガイドラインによると、最も多い症状は息切れ・呼吸困難で、複数の研究で76〜84%にみられるとされています。一方、胸の痛みがみられるのは32〜48%で、実は痛みよりも息苦しさのほうが高頻度です。

診断されず治療が行われない場合の死亡率は約30%とされていますが、適切な治療を行えば2〜8%まで下げられるとされています。

緊張性気胸・心タンポナーデ・食道破裂

いずれも頻度は高くありませんが、共通するのは「気づかれにくく、進行が早い」ことです。

緊張性気胸は、肺から漏れた空気が胸の中に溜まり、心臓や肺を圧迫する状態で、重度の息苦しさや血圧低下を伴います。心タンポナーデは、心臓の周りに液体が急速にたまり、心臓の動きを妨げる状態で、血圧低下や心音減弱が特徴です。食道破裂(Boerhaave症候群)は、激しい嘔吐をきっかけに食道が破れるまれな病気で、診断・治療の遅れとともに生存率が下がります(発症24時間以内なら生存率75%、48時間の遅れで50%、72時間では10%まで下がるとされています)。

頻度は高くありませんが、いずれも時間の経過とともに経過が悪化しやすいという点は共通しています。

見逃せない胸の症状、まとめ

病気特徴的な症状時間との関係
心筋梗塞(急性冠症候群)圧迫感・絞扼感・重苦しさなど。あご・首・背中に広がることも治療開始までの時間が短いほど経過が良い(国内ガイドラインは60分以内が目標)
急性大動脈解離突然の、経験したことのない激しい痛み(6%程度は無痛)1時間経過するごとに致死率が1〜2%上昇
肺塞栓症息切れ・呼吸困難が最多(胸の痛みより高頻度)治療の有無で死亡率が約30%→2〜8%に変わる
緊張性気胸重度の息苦しさ、血圧低下進行が早い
食道破裂激しい嘔吐の後に起きる胸・背部の痛み診断・治療が遅れるほど生存率が低下
出典: 日本循環器学会ほか合同研究班. 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)/大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)/肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン(2025年改訂版)/Sahota RJ, et al. StatPearls. PMID: 32644516. /Gopal S, et al. StatPearls. PMID: 28613742. /Predescu D, et al. Diagnostics (Basel). PMID: 41095682. のデータをもとに作成

こうした症状があるときは、早めに受診してください

胸の症状で救急外来を受診した人のうち、半数は心臓が原因ですらないことは、すでに述べたとおりです。多くの場合、緊急性の高い病気ではありません。

そのうえで、次のような胸の症状では、救急車の要請が推奨されます。

  • 突然起きた、これまで経験したことのない激しい胸の痛みや、引き裂かれるような痛み
  • 圧迫感・絞扼感・重苦しさが20分以上続く胸の症状
  • 胸の症状に、息切れ・冷や汗・吐き気・意識がもうろうとする感じなど、他の症状を伴う場合
  • 胸の症状とともに、突然の激しい息苦しさがある場合

国内の学会ガイドラインには、急性冠症候群が疑われる症状が出現した場合について、「患者自身が医療機関を受診するのではなく、ただちに119番通報して救急車を要請する必要がある」と記されています。

一方で、これらの症状がないからといって、安心できるとも限りません。急性大動脈解離の6%程度は痛みを伴わないとされていますし、肺塞栓症は「診断の根拠となる特異的な症状や所見がなく、多くの患者は症状が乏しいこともあり、診断が難しいことが多い」ともされています。心筋梗塞についても、「症状の性状だけで除外してはならない」とガイドラインに明記されています。

迷ったときは — ♯7119という選択肢

「救急車を呼ぶほどではない気がするが、様子を見ていいのかも分からない」——そんなときのための窓口があります。

♯7119(救急安心センター事業)は、看護師をはじめとする専門的な知識を有する相談員から電話でアドバイスを受けられる仕組みです。「救急車を呼ぶべきか」「今すぐ病院に行くべきか」を相談でき、応急手当の助言や、適切な医療機関の案内を受けられます。全国41地域で実施されており(地域によっては対象外です)、利用者の約9割が「役に立った」と回答しているとされています。

♯7119は、119番を我慢するための手段ではありません。判断に迷うときに相談できる窓口として、選択肢のひとつになります。

受診前の状況整理

診察室で伝えるべきポイント

  1. いつから、どんなときに症状が出るか(安静にしていても出るか、体を動かしたときだけか)、どう変化してきたか(急に始まったか、じわじわとか)
  2. 痛みや不快感の感じ方(「痛い」だけでなく、圧迫感・絞扼感・重苦しさ・焼けるような感じなど、言葉にしにくい感覚もそのまま伝えてください)
  3. 他に一緒に出ている症状(息切れ、冷や汗、吐き気、あご・首・背中への広がりなど)

このほか、次のことを伝えられると、話が早くなります。

  1. 心血管リスク因子5項目(高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙歴・心血管疾患の家族歴)のうち当てはまるもの
  2. これまでにかかった心臓の病気や血栓症
  3. 抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用しているか
  4. 本人がいちばん気になっていること(「前に親が心筋梗塞になった」「痛みより息苦しさが心配」など)

この記事だけで自己判断をしないでください。突然の激しい胸の症状や、他の症状を伴う場合は、救急車の要請が推奨されています。それ以外で迷うときは、♯7119への相談も選択肢の一つです。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • 日本循環器学会ほか合同研究班. 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版). 2019.
  • Kontos MC, et al. J Am Coll Cardiol. 2022 Nov 15;80(20):1925-1960. PMID: 36241466.
  • Yukselen Z, et al. Open Access Emerg Med. 2024 Feb;16:29-43. PMID: 38343728.
  • Mandrekar S, et al. Scand J Pain. 2021 Jul 27;21(3):434-444. PMID: 33838099.
  • Yamaguchi J, et al. Circ Rep. 2022 Feb 25;4(3):109-115. PMID: 35342837.
  • 日本循環器学会ほか合同研究班. 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版). 2020.
  • 日本循環器学会ほか合同研究班. 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン(2025年改訂版). 2025.
  • Sahota RJ, et al. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jul 7. PMID: 32644516.
  • Gopal S, et al. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan. PMID: 28613742.
  • Predescu D, et al. Diagnostics (Basel). 2025 Sep 26;15(19):2463. PMID: 41095682.
  • 総務省消防庁. 救急安心センター事業(♯7119).
  • Birnbach B, et al. BMC Cardiovasc Disord. 2020 Oct 14;20(1):445. PMID: 33054718.

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

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