健診結果の紙に「LDLコレステロール高値」「要注意」と書かれていた。あるいは診察室で「コレステロール、高いですね」と言われた。これっていわゆる高脂血症?けれど、体のどこも痛くないし、いつもと変わったところはない。
脂質異常症のいちばん厄介なところは、そこにあります。数値が高いこと自体には、ほとんど症状がありません。だから「今すぐ何かが起きるわけではないのに、なぜこの数値がそんなに問題視されるのか」という疑問が残ります。
どれくらいの人が同じ状況にいるのか、LDLコレステロールの数値がなぜ重視されるのか、そして健診で指摘されたときに、まず何をすることになるのか。ガイドラインと原著論文をもとに整理します。
この記事の要点
- 血清総コレステロール値が240mg/dL以上の人は、男性10.1%、女性23.1%。珍しいことではない。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が重視されるのは、心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)のリスクと関連するため。
- 日本人約9万人を追跡した研究では、LDLコレステロール140mg/dL以上の男性で、心筋梗塞などの心血管疾患による死亡リスクが約2倍。
- ガイドラインの原則は、まず生活習慣の改善に取り組み、3か月ほど様子をみてから薬物療法を検討すること。
- 受診の目安:数値が高いというだけで、緊急の受診が必要になることはまれ。ただし「突然」顔が歪む・手に力が入らない・呂律が回らない(脳卒中を疑うサイン)、または胸の痛みや不快感が現れたときは、すぐに救急車を呼んでください。
それぞれ、順を追って説明します。
脂質異常症の頻度

かつて「高脂血症」と呼ばれていたこの状態は、2007年に「脂質異常症」という呼称に変更されました。令和5年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上で血清総コレステロール値が240mg/dL以上の人は、男性10.1%、女性23.1%でした。血清non-HDLコレステロール値の平均は、男性139.0mg/dL、女性143.5mg/dLです。女性はこの10年で240以上の割合が有意に増えている一方、男性には有意な増減がありませんでした。
ここで、ひとつお断りしておきます。この調査で確認できるのは総コレステロールとnon-HDLコレステロール(総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値)の数値で、LDLコレステロールそのものの分布は、今回参照した資料には含まれていません。そのため「LDLコレステロールが140mg/dL以上の人が何%」という数字は、この記事では示せません。
実際に脂質異常症の治療を受けている人は401万人という、別の統計もあります。これは有病率とは違う指標です。治療によって数値が下がっている人や、まだ指摘を受けていない人は、この401万人には入っていません。健診で指摘される人の多さと、治療中の人の数は、それぞれ違うものを見ている、という点だけ押さえておいてください。
ありふれていることと、放っておいてよいことは別です。次に、なぜLDLコレステロールという数値がそんなに重視されるのかを見ていきます。
LDLコレステロールが重要とされる理由
脂質異常症にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の高値のほか、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低値や中性脂肪の高値もありますが、この記事ではLDLコレステロールに絞って説明します。
LDLコレステロールが重視されるのは、心血管疾患、つまり心筋梗塞や脳卒中のリスクと関連するためです。ここでの一次資料は、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」です。このガイドラインは、久山町研究という日本の疫学研究をもとにしたスコアを使って、一人ひとりの心血管疾患リスクを評価したうえで、目指すべきLDLコレステロールの数値を決める、という考え方をとっています。
このリスク評価には、性別も計算に使う要素の1つとして組み込まれています。女性だからといって、この評価から外れるわけではありません。
その目標値をまとめたのが、次の表です。「一次予防」はまだ心血管疾患になっていない人の予防、「二次予防」はすでに経験した人が再発を防ぐための対応を指します。
| 区分 | LDLコレステロールの目標値 |
|---|---|
| 低リスク(一次予防) | 160mg/dL未満 |
| 中リスク(一次予防) | 140mg/dL未満 |
| 高リスク(一次予防) | 120mg/dL未満 |
| 糖尿病(合併症・喫煙なし) | 120mg/dL未満 |
| 糖尿病(合併症または喫煙あり) | 100mg/dL未満 |
| 二次予防(冠動脈疾患・脳梗塞の既往) | 100mg/dL未満 |
| 二次予防(急性冠症候群・家族性高コレステロール血症など) | 70mg/dL未満 |
表の低リスク・中リスク・高リスクの区分は、年齢・性別・血圧・糖尿病の有無・喫煙歴などから算出される久山町スコアによって決まります。自分がどの区分にあたるかは、この記事だけでは分かりません。詳しく知りたい方は、かかりつけ医に相談してみてください。

この目標値の背景には、日本人を対象にした実証データもあります。1993年に40〜79歳の日本人約9万人を対象に調査を始め、約10年間追跡した研究では、男性でLDLコレステロールが140mg/dL以上だった群は、80mg/dL未満だった群と比較して、冠動脈疾患(心臓を養う血管が詰まる病気)による死亡リスクが約2倍(調整後ハザード比2.06)でした。ハザード比とは、比べた2つの群のあいだで、その出来事がどれだけ起こりやすいかを表す指標で、1より大きいほど起こりやすいことを意味します。
一方、女性では、同じ比較で明確な関連はみられませんでした。ただし、前述の目標値表は、この1本の研究だけが根拠ではありません。久山町スコアを開発した別の研究では、日本人約2,450人を24年間追跡したデータから、年齢・性別・血圧・糖尿病・LDLコレステロール・HDLコレステロールを組み合わせてリスクを予測するモデルがつくられており、性別も要素の1つとして扱われています。
この研究自体は、大勢の人を長期間追いかけて調べた「観察研究」です。観察研究でわかるのは「LDLコレステロールが高い人ではこの病気が多い」という関連であって、「LDLコレステロールが高いことが原因で死亡する」と証明したものではありません。また、女性で明確な関連がみられなかったことは、「女性は心配ない」という意味では決してありません。サンプルの特性や、追跡期間中に確認された死亡数の少なさなど、統計的にこの種の関連を検出しにくくする要因が影響した可能性があると考えられ、この研究だけで「女性では関係がない」と結論づけることはできません。
LDLコレステロールが高いこと自体は、痛みも症状もなく、その場で何かが起きるものではありません。ただし、その先につながる病気には、急いで受診すべきサインがあります。
LDL値が高いときの受け止め方と、急ぐべきサイン
健診でLDLコレステロールの高値を指摘されても、多くの場合、その日のうちに何かが起きるわけではありません。数値そのものは、対応を考えるまでに数週間から数か月の余裕があることがほとんどです。
ただし、次のような症状が出たときは別です。
脳卒中を疑う症状 —「ACT FAST」
日本脳卒中学会と日本脳卒中協会の資料では、脳卒中を疑うサインとして「ACT FAST」という合い言葉が使われています。次の3つが「突然」現れたときです。
すぐに救急車を呼んでください。
- 顔(Face) — 顔が歪む。
- 腕(Arm) — 手に力が入らない。
- 言葉(Speech) — 呂律が回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない。
症状が出た時刻(Time)を確認して、すぐに救急車を呼んでください。治療は早く始めるほど効果があるとされています。
心筋梗塞を疑う症状
急性冠症候群(心筋梗塞や、その一歩手前の状態をまとめた呼び方)が疑われて救急外来を受診した人を調べた研究では、胸の痛みが主な訴えだったのは男性91%・女性92%でした。まず胸の症状を疑う、というのは理にかなっています。ただし、緊急性は痛みの強さや続く時間、ほかの症状を伴うかどうかで変わります。
すぐに救急車を呼んでください。
- 圧迫感・絞扼感・重苦しさが20分以上続く胸の症状
- 胸の症状とともに、あご・首・肩・背中・腕に痛みや不快感が広がる場合
- 胸の症状に、息切れ・冷や汗・吐き気・意識がもうろうとする感じなど、他の症状を伴う場合
気になる数字もあります。急性冠症候群を経験した人のうち、自分の症状を心臓が原因だと結びつけられたのは45.1%でした。半分以上の人は、そのときに心臓の症状だと思っていなかったことになります。
症状がないときの注意
逆に、症状がないことは「LDLコレステロールの数値を放っておいてよい」という意味にもなりません。前の章でみたとおり、目標値に届いていない状態が続くことと、心血管疾患のリスクとの関連は、日本人を対象にした研究でも示されています。症状がないことは、リスクがないことを意味しません。
治療方針 — 生活習慣の改善が先、薬物療法はその先の選択肢
健診でLDLコレステロールが高いと指摘されても、その場ですぐに薬が始まるわけではありません。
ガイドラインが示す順序
日本動脈硬化学会のガイドラインが示す原則は、まず生活習慣の改善(食事療法・運動療法・禁煙、そして飲酒の見直し)に取り組み、原則3か月ほどその効果をみたうえで、薬物療法の適応を検討する、というものです。
ただし、ガイドラインはこうも述べています。生活習慣の改善の効果には個人差が大きいため、それにこだわって薬物療法の開始をいたずらに遅らせることも避けるべきだ、と。
そして、この「まず生活習慣」という原則には、当てはまらない場合があります。
- 家族性高コレステロール血症(生まれつきLDLコレステロールが強く高くなる体質)など、はじめから薬物療法が必要になる場合がある。
- 二次予防、つまりすでに冠動脈疾患などの既往がある場合は、生活習慣の見直しと薬物療法を並行して検討する。
「生活習慣改善が先」は、あくまで一次予防における原則であり、すべての人に一律に当てはまるものではありません。
生活習慣改善そのものの効果
生活習慣の改善が、実際にどれくらいの効果を持つのかも見ておきます。地中海食(野菜・魚・オリーブオイルを中心とした食事パターン)の心血管疾患予防効果をまとめたコクランレビューでは、一次予防において脳卒中の発症が、対照群1,000人あたり24人から、地中海食を実践した群では14人に減少していました。
一方で、LDLコレステロールそのものへの効果は「質の低いエビデンスで、小幅な改善にとどまる」という結果でした。生活習慣の改善は、心血管疾患のリスク全体を下げる方向に働きうる一方で、LDLコレステロールの数値そのものを大きく下げるという強い根拠は、今のところありません。「数値を下げる」ことと「心血管疾患のリスクを下げる」ことは、必ずしも同じ強さの根拠で語れるわけではない、という点はお伝えしておきます。
薬物療法の効果 — 3か月たっても届かない場合の選択肢

3か月の生活習慣改善を経ても目標に届かない場合、薬物療法(スタチンなど)が選択肢になります。
心血管疾患の既往がなく、5年以内に主要な血管の病気が起きるリスクが10%未満という、比較的リスクの低い集団を対象にした解析では、LDLコレステロールが1.0mmol/L(約39mg/dL)下がるごとに、主要な血管の病気が相対的に21%減少していました。実際の人数で見ると、5年間で1,000人あたり約11人、主要な血管の病気を減らす計算になります。
より強力にLDLコレステロールを下げた場合の解析でも、1.0mmol/L下がるごとに主要な血管の病気が22%、あらゆる原因による死亡が10%、それぞれ低下していました。心血管疾患の既往がない人だけを対象にした別の解析でも、あらゆる原因による死亡の相対リスクは0.93、心血管の病気による死亡は0.89という結果でした。
ただし、大事な注意点があります。これらの研究は、いずれも欧米を中心とした集団を対象にした国際共同研究です。日本人でも同じ大きさの効果が得られるとは、この記事のデータだけでは断定できません。また、「1,000人あたり11人」という数字も、5年リスク10%未満という特定の集団のものであり、すべての人に同じように当てはまるとは限りません。
薬物療法は、生活習慣の改善で目標に届かなかった場合の選択肢のひとつであって、どちらか一方だけを勧めるものではありません。どう組み合わせるかは、受診の場で決めていくことになります。
受診前の状況整理
次の受診では、次のことを伝えると話が早く進みます。
診察室で伝えておきたいこと
- 健診結果の推移(今回だけでなく、過去数回分のLDLコレステロール・総コレステロール・中性脂肪の値)。リスクの評価や目標値の設定、そして生活習慣改善の効果判定は、一時点の数値だけでなく経過を踏まえて行われます。
- 心血管疾患の既往、および家族に若くして心筋梗塞・脳卒中になった人がいるか。一次予防か二次予防か、家族性高コレステロール血症の可能性があるかどうかで、生活習慣の改善を先に試すかどうかの判断が変わります。
- 糖尿病・慢性腎臓病・喫煙の有無。ガイドラインでLDLコレステロールの目標値が変わる要因として挙げられています。
このほか、いちばん気になっていること——「薬を飲みたくない」「生活を変える自信がない」——は、話してもらえないと医師には分かりません。
この記事だけで自己判断をしないでください。生活習慣の改善で様子をみるか、薬物療法を始めるかは、あなたの状況を知っている医師と一緒に決めるものです。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- 厚生労働省. 令和5年国民健康・栄養調査結果の概要. 2024.
- 厚生労働省. 令和5年(2023)患者調査の概況. 2024.
- 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 2022.
- Noda H, et al. J Intern Med. 2010 Jun;267(6):576-87. PMID: 20141564.
- Honda T, et al. J Atheroscler Thromb. 2022 Mar;29(3):345-361. PMID: 33487620.
- 日本脳卒中学会(監修), 日本脳卒中協会(協力). 脳卒中の予防・発症時の対応.
- Ferry AV, et al. J Am Heart Assoc. 2019 Sep 3;8(17):e012307. PMID: 31431112.
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- 日本循環器学会ほか合同研究班. 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版). 2019.
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- Mills EJ, et al. J Am Coll Cardiol. 2008 Nov;52(22):1769-81. PMID: 19022156.
本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

