サウナや温かい湯船が「体にいい」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。一方で、冬になると入浴中の事故のニュースを目にすることもあります。
同じ「温まる習慣」が、なぜ良い話にも悪い話にもなるのでしょうか。頻度・入り方・持病の有無によって何が変わるのかを、研究データをもとに整理します。
この記事の要点
- サウナ・湯船浴とも、頻度が高い群ほど心血管の指標に良好な傾向がみられる。
- 入浴直後は血管が広がり血圧が一時的に下がる。
- 冬は入浴中の意識消失・溺水による死亡があり、温度差・飲酒が危険を高めるとされる。
- 【受診の目安】片側の手足の脱力・ろれつが回らない、突然の激しい胸の痛みは救急要請、動悸や息苦しさが続くときも早めの受診がすすめられている。
主治医に相談するときに伝えるべきこと
- ふだんのサウナ・入浴の頻度、温度、時間。
- 持病(高血圧・心不全・不整脈など)があるか。
- 服用中の薬(利尿薬・降圧薬など)。
- 入浴中・入浴後に意識を失ったことや動悸があったか。
- 飲酒の習慣。
この記事だけで自己判断をしないでください。
詳しい解説
ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。
入浴・サウナ直後に起こること(血管への急性反応)
心血管の危険因子はあるものの症状のない102名を対象に、サウナ入浴(約30分・73℃・低湿度)を1回行った実験研究があります。入浴直後、動脈の硬さを反映する指標(脈波伝播速度)が9.8m/秒から8.6m/秒に低下し、上の血圧(収縮期血圧)も137mmHgから130mmHgに低下しました。血圧の低下は入浴後30分の安静中も維持されていましたが、脈波伝播速度は30分後には9.0m/秒までやや戻っており、低下がそのまま保たれたわけではありません。
体が温まると血管が広がり、血液が流れやすくなります。これによって血管の硬さの指標や血圧が一時的に下がると考えられます。
ただしこの研究はランダム化比較試験ではなく、単回の入浴による急性の変化を観察したものです。この結果だけから「サウナに入れば動脈硬化が改善する」「心血管イベントが減る」と結論づけることはできません。長期的な効果を確かめるには、繰り返し入浴した場合の変化や、実際の心血管イベントを追跡した研究が必要です。それを扱うのが次の章です。
頻度でみる心血管アウトカム(フィンランドの研究から)
フィンランドの前向きコホート研究(KIHD研究、1,688名、追跡期間の中央値15.0年)では、サウナに入る頻度別に心血管死亡のリスクを比較しています。年齢・血圧・喫煙など他の危険因子を考慮したうえでも、サウナに入る頻度が高い群ほど心血管死亡のリスクが低いという関連がみられました。サウナ頻度を従来の危険因子予測モデルに追加すると、予測精度も有意に改善したと報告されています。
同じフィンランド人男性コホートを使った別の解析では、高血圧がある人でもサウナ頻度が高い群では、頻度が低い群に比べて全死因死亡のリスク上昇が小さくなる傾向がみられました。高血圧とサウナ習慣の関連については、定期的なサウナ入浴が高血圧の発症リスク低下と関連すると整理したレビューもあります。
これらはいずれも観察研究であり、「サウナに入れば死亡リスクが下がる」という因果関係を証明するものではありません。サウナによく入れるだけの体力や生活習慣そのものが、健康と関連している可能性(逆の因果関係や交絡)を排除できないためです。「頻度が高い群で、心血管死亡や全死因死亡のリスクが低い傾向がみられた」という関連の水準でとどめて読む必要があります。
なお、脳卒中の発症や高血圧の新規発症そのものについて、具体的な倍率を示した無料公開データは今回確認できませんでした。そのため本記事では、これらのアウトカムについて具体的な数値には触れていません。
日本の入浴データでみえること
| フィンランド式サウナ | 日本の湯船浴 | |
|---|---|---|
| 温度 | 80〜100℃前後 | 40〜42℃前後 |
| 湿度 | 低い(ドライ) | 高い(浴槽内) |
| 入り方 | 座って蒸気にあたる | 肩まで湯に浸かる |
| 研究で報告される主な関連(定性的な整理) | 死亡率の低下との関連 | 動脈硬化・血糖指標の改善との関連 |
ここまでのデータは、フィンランドの高温・低湿度のドライサウナを対象にしたものです。日本の家庭の湯船浴とは温度・湿度・浸かり方が異なります。両者を対象にした研究を整理したレビューでは、サウナ研究は主に死亡率の低下、湯船浴の研究は主に動脈硬化や血糖の指標の改善に重心が置かれていると報告されています。研究の対象は違いますが、「温まる頻度が高いほど、心血管に関わる指標が良い方向に傾く」という大きな向きは共通しています。
日本人の中高年873名を対象にした研究では、週5回以上の温浴習慣がある人は、動脈の硬さの指標(baPWV)や中心血圧、心臓への負担を反映する物質(BNP)が有意に低い値でした。数年間の追跡でも、温浴頻度が高いほどBNPの上昇が抑えられていました。
また、地域在住の高齢者1,479名を対象にした実生活下での観察研究では、入浴中に皮膚温度が1℃上がるごとに収縮期血圧が2.41mmHg、心拍数が2.99拍/分上がることが示されました。入浴前に体が冷えているほど、入浴中の血圧・心拍の変化が大きくなりうるとされています。日常的に温まる習慣そのものは良い方向と関連する一方で、入浴の瞬間には血圧や心拍が変動していることも分かります。この変動が大きく出やすい場面については、後述するリスクの章で扱います。
心不全がある場合の位置づけ
遠赤外線を使ったドライサウナで体を温める治療法(Waon療法)は、心不全の患者を対象にした研究が積み重ねられています。9件の研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析では、Waon療法によって心臓への負担を反映する物質(BNP)の低下、心臓の拡大の指標(心胸郭比)の改善、心臓が血液を送り出す力(左室駆出率)の向上との関連が報告されています。
日本発の多施設ランダム化比較試験(WAON-CHF研究、進行性心不全の患者149名)では、60℃・15分・連日10日間というプロトコルのもとで、BNP・心不全の重症度分類(NYHA分類)・6分間で歩ける距離・心胸郭比が有意に改善し、安全性にも大きな問題はなかったと報告されています。
ここで注意したいのは、これらが医療者の管理下で行われた治療としての温熱療法だという点です。温度・時間・頻度が厳密に管理されたプロトコルであり、「心不全がある人が自己判断で高温のサウナや長時間の湯船浴に入ってよい」ということを示すものではありません。心不全や不整脈などの持病がある場合、サウナ・入浴の習慣を変えるときは自己判断をせず、主治医に相談することがすすめられます。
すぐに救急車を呼んでください
入浴・サウナに関連して、次のような症状が起きたときは対応を急ぐ必要があります。
すぐに救急車を呼んでください。
- 片側の手足に力が入らない、ろれつが回らないなど、いつもと違う様子がある。
- 突然の激しい胸の痛みや締め付けられるような感覚がある。
これらは脳卒中や心筋梗塞を疑う徴候です。待つこと自体が回復を妨げるおそれがあるため、様子を見ずに救急要請してください。片側の手足の脱力・ろれつが回らないという徴候は、日本脳卒中学会・日本脳卒中協会が脳卒中を疑うサインとして呼びかけている「ACT FAST」の一部です。また、突然の激しい胸の痛みについて、国内の学会ガイドラインは「患者自身が医療機関を受診するのではなく、ただちに119番通報して救急車を要請する必要がある」としています。
一方、入浴後に動悸や息苦しさが続く場合や、立ちくらみを繰り返す場合は、緊急性は低いものの早めの受診がすすめられます。
増える入浴関連死とその背景(ヒートショック・アルコール併用)
冬季6か月間を対象にした全国調査では、入浴に関連した死亡が全国で推計13,369件にのぼると報告されています。調査対象4,599件のうち1,527件(33%)は心停止が関与したとみられ、その多くが湯を張った浴槽内で顔が水没した状態で発見されており、溺水が重要な関与因子とされています。
「ヒートショック」という言葉は広く使われていますが、正式な医学的診断名ではなく、脱衣所や浴室の急激な温度差によって血圧が大きく変動し、それに伴って意識消失や溺水が起こる状態を包括的に指す通称です。寒い脱衣所で血管が縮んで血圧が上がり、熱い湯に浸かると血管が広がって血圧が急に下がる、という変動の大きさが背景にあると考えられています。1995〜2020年の入浴中の溺水死亡約10万件を分析した研究では、気温の低さと人口規模が重要な予測因子だったと報告されており、寒い時期・寒い地域ほどリスクが高まる可能性が示唆されています。
飲酒との組み合わせにも注意が必要です。韓国のサウナに関連した死亡例を法医学的に集積した研究(103例)では、飲酒があった事例となかった事例とで特徴が異なり、血中アルコール濃度によって死亡のパターンに違いがみられたと報告されています。この研究は韓国式のサウナを対象にしたもので、日本の湯船浴にそのまま当てはめられるわけではありませんが、「飲酒後の高温環境の利用はリスクを高めうる」という点は共通して注意すべき情報といえます。
出典
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