便潜血陽性 ―痔だと思って放置してよいか

健診や人間ドックの便潜血検査で「陽性」と言われると、大腸がんではないかと不安になるものです。とくに、2回法の便潜血検査で2回のうち1回しか陽性にならなかった場合、「様子を見てよいのでは」と迷う方も少なくありません。

この検査はがんの有無を確定するものではなく、精密検査が必要な人を絞り込むための入口の検査です。この記事では、便潜血検査の目的と精度、2回のうち1回だけ陽性だったときの考え方、大腸内視鏡以外の選択肢について、公表されているデータをもとに整理します。

この記事の要点

  • 便潜血検査(FIT)は、大腸内視鏡が必要な人を絞り込む「入口の検査」。
  • 国内ガイドラインでの感度は84%、特異度は92%。
  • 陽性でがんが見つかるのは数%程度だが、精密検査で確かめる価値がある。
  • 痔や大腸憩室があると、がんや腺腫がなくても便潜血検査が偽陽性となりやすい。
  • 2回のうち1回だけの陽性でも、精密検査がすすめられている。
  • 【受診の目安】便潜血検査が陽性だった場合、自覚症状の有無にかかわらず精密検査を受けることがすすめられている。

受診するときに医師に伝えるべきこと

  • 便潜血検査の結果(1回法・2回法のどちらで、何回中何回陽性だったか)と、検査を受けた時期。
  • 気になる症状の有無とその経過(血便・体重の変化・貧血症状・便通の変化など)。
  • 家族に大腸がんになった人がいるか。
  • 過去に大腸内視鏡を受けた時期と結果(受けたことがあれば)。
  • 飲んでいる薬(とくに血をさらさらにする薬)。

受診先の目安

まずは内科で相談できます。大腸内視鏡などの精密検査を受ける場合は、消化器内科も選択肢になります。

※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。

この記事だけで自己判断をしないでください。精密検査をいつ、どの方法で受けるかは、あなたの状況を知っている医師と一緒に決めるものです。

詳しい解説

ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。

※記事中の感度・特異度の数字の読み方は、感度と特異度の解説ページで説明しています。

目次

便潜血検査(FIT)の目的

大腸がんや、がんの前段階である進行した腺腫(せんしゅ、大腸の粘膜にできる良性のできもの)があると、病変の表面から出血しやすくなります。便潜血検査免疫法(FIT)は、便にごくわずかに混じったヒトヘモグロビン(赤血球に含まれる、酸素を運ぶ赤い色素)を検出する検査で、この出血しやすさを利用しています。

国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」では、便潜血検査免疫法は対策型検診・任意型検診のいずれでも実施が推奨される「推奨グレードA」に位置づけられています。これは2005年版のガイドラインから変わらない評価です。

ここで押さえておきたいのは、便潜血検査は大腸がんの有無を確定させる検査ではないという点です。あくまで「大腸内視鏡で詳しく調べたほうがよい人」を絞り込むための、入口の検査という位置づけです。陽性という結果は「大腸を詳しく調べる価値がある」というサインであり、実際に病変があるかどうかは、この先で説明する精密検査を受けて初めて分かります。

(参考)大腸ポリープの種類とがん化のしやすさ

大腸内視鏡で見つかる大腸ポリープは、大きく腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられます。

腫瘍性ポリープは「腺腫」と呼ばれ、ポリープの中でもっとも悪性化するポテンシャルが高く、大腸がんの多くはこの腺腫を経て発生すると考えられています。

非腫瘍性ポリープには、過形成性ポリープと炎症性ポリープがあります。いずれも悪性化するポテンシャルは低いとされていますが、過形成性ポリープのうち、サイズが大きいものや大腸の奥側(盲腸・上行結腸側)にできるものの一部は、「鋸歯状(きょしじょう)病変」と呼ばれる別の経路でがん化に関わりうることが報告されています。炎症性ポリープは、炎症が治る過程でできる組織の盛り上がりであり、腺腫のような新生物(腫瘍)ではありません。

大腸ポリープの分類を示す図。腫瘍性ポリープ(腺腫)はがん化のリスクがあり、非腫瘍性ポリープ(過形成性ポリープ・炎症性ポリープ)はがん化のリスクが低いことを表す分類図
出典: Meseeha M, et al. StatPearls [Internet]. PMID: 28613512/Rosty C, et al. J Gastroenterol. 2013 Mar;48(3):287-302. PMID: 23208018. のデータをもとに作成

便潜血検査の感度の高さ

感度の意味を示すベン図。病気を有する人・検査が陽性の人・病気を持っていない人の関係と、感度が病気を有する人のうち検査陽性と判定される割合であることを表す概念図

「感度が高い」の意味

「感度」とは、実際に大腸がんがある人のうち、検査で正しく「陽性」と判定できる割合のことです。感度が高いほど、病気を見逃しにくいことを意味します。反対に「特異度」は、病気がない人を正しく「陰性」と判定できる割合で、特異度が高いほど、不要な精密検査(偽陽性)が少なくなります。

上の図で言えば、感度が高い検査ではBの円が左にずれてAの円とほとんど重なり、病気を有している人を正しく陽性と判定できる可能性が高い、ということになります。裏を返すと、感度が高い検査で陰性であれば、その病気の可能性は低い、ということになります(除外診断)。

国立がん研究センターのガイドライン2024年度版では、便潜血検査免疫法の統合感度は84%、統合特異度は92%と算出されており、2005年版の時点よりも精度が大きく向上したことが示されています。たとえば感度84%というのは、大腸がんがある100人のうち84人を正しく陽性と判定できるという意味であり、検査を受けた人全体のうち何%にがんがあるかを示す数字ではありません。

(参考)対象者の状態による数字の違い

ただし、この数字は「検査を受ける対象者の状態」によって変わることに注意が必要です。米国予防医学専門委員会(USPSTF)の委託によるエビデンスレポートでは、無症状の一般スクリーニング集団でのFITの大腸がん検出感度は74%・特異度は94%と報告されています。感度・特異度の数字は、対象者に無症状の人が多いか、すでに症状がある人やリスクの高い人が多いかによって変わるため、性質の異なる集団の数字をそのまま比べることはできません。健診・人間ドックで便潜血検査を受けた場合にあてはまるのは、無症状の一般集団を対象にした数字(国内ガイドラインの感度84%・特異度92%、USPSTFの感度74%・特異度94%)です。

陽性の受け止め方

日本消化器内視鏡学会が紹介する国内の関連施設のデータでは、便潜血検査が陽性だった人が大腸内視鏡を受けた結果、早期の大腸がんが見つかった割合は0.8%、10mm以上の腺腫などの高リスクポリープが見つかった割合は2.2%でした(全国を代表する数値ではなく、特定施設の実績である点には注意が必要です)。つまり、陽性者の大半はがんが見つかるわけではなく、「陽性=がん確定」ではありません。

一方で、この数字は「陽性なら様子を見てよい」ということも意味しません。便潜血検査は、大腸がんやがんに進みうる病変を持つ人を効率よく拾い上げるための入口の検査であり、実際にがんかどうかを確かめる手段は、大腸内視鏡などの精密検査に限られます。陽性という結果は、「精密検査で確かめる価値がある」という意味だと捉えるのが実情に近いといえます。

陽性になりやすい要因

便潜血検査は、大腸がん以外の出血でも陽性になることがあります。中国の大規模な大腸がん検診データを用いた研究では、痔核(じかく、いわゆる痔)や大腸憩室(大腸の壁の一部がポケット状にくぼんだもの)があると便潜血検査が偽陽性になりやすく、喫煙・常習的な飲酒・肥満(BMIが高いこと)・高齢であることも偽陽性のリスクを高める要因として報告されています。

別の研究では、大腸内視鏡で痔核が見つかった人は、痔核がなかった人と比べて便潜血検査が偽陽性になる可能性が約2.8倍高いと報告されています。便潜血検査は大腸がんによる出血に限らず、大腸からのあらゆる出血に反応するため、こうしたことが起こります。ただし、陽性という結果だけでは出血の原因が痔などの良性のものか、進行した病変によるものかを見分けることはできないため、原因がすでにはっきりしている場合を除き、大腸内視鏡などの精密検査で確かめることがすすめられています。

2回のうち1回だけ陽性だったとき

多くの自治体・職域検診では、2日にわけて便を採取する「2回法」の便潜血検査が使われています。2回のうち1回だけ陽性だった場合の結論は明確です。1回でも陽性であれば、大腸内視鏡などの精密検査を受けることがすすめられています。「2回中1回だから、様子を見てよい」という判断は誤りです。

「2回中1回だから大丈夫」ではない理由

1回法と2回法を比較したシステマティックレビュー・メタ解析では、進行した腫瘍性病変(進行がん・進行腺腫)の検出率そのものに、1回法と2回法のあいだで統計学的に有意な差はありませんでした(相対リスク0.94、p=0.40)。むしろ、進行腺腫に対する陽性的中率は1回法のほうが高いという結果でした(進行腺腫で相対リスク1.41、進行新生物全体で相対リスク1.21)。つまり2回法で陽性の数が増える分、その多くは低リスクの病変に由来しており、「陽性の回数が多いほど深刻」というわけではなく、逆に「1回だけの陽性」を軽く見てよい根拠にもなりません。

日本消化器内視鏡学会が紹介する国内データでも、1回だけ陽性だった人のうち0.8%に早期大腸がん、2.2%に高リスクポリープが見つかっており、1回だけの陽性であっても、一定の割合で精密検査が必要な病変が見つかっています。

(参考)採便回数が1回法・2回法どちらも認められるようになった背景

2024年度版の大腸がん検診ガイドラインでは、採便回数が「1回法・2回法のいずれも実施可能」に変更されました。2005年版までは2日法が前提でしたが、この変更は検査の精度が落ちたために緩められたわけではなく、1回法でも十分な精度が得られるという知見が蓄積してきたことを反映したものです。つまり、この変更は「1回の陽性は軽視してよい」という意味ではなく、「1回の採便でも、2回法と遜色ない精度で必要な人を拾い上げられる」という意味です。すでに2回法で検査を受けていて1回だけ陽性だった場合に、この結論が変わるわけではありません。

大腸内視鏡以外の選択肢

便潜血検査が陽性だった場合の精密検査として、現在も第一選択とされているのは大腸内視鏡です。国内のガイドラインでも、この位置づけは2024年度版においても変わっていません。そのうえで、大腸内視鏡以外にも、大腸の病変を調べる検査として名前が挙がるものがあります。米国予防医学専門委員会(USPSTF)が委託した、33件の研究・約1,077万人を対象にしたエビデンスレポートでは、これらの検査法の精度が次のように報告されています。

検査法対象病変感度特異度
便潜血検査(FIT)大腸がん74%94%
便潜血検査(FIT)進行腺腫23%96%
大腸内視鏡10mm以上の腺腫89〜95%89%
CTコロノグラフィー大腸がん86〜100%―
CTコロノグラフィー10mm以上の腺腫89%94%
大腸カプセル内視鏡10mm以上の腺腫92〜100%95〜98%
出典: Lin JS, et al. JAMA. 2021 May;325(19):1978-1998. PMID: 34003220. のデータをもとに作成

これらの検査は、対象病変の定義(大腸がんそのものか、10mm以上の腺腫か等)やカットオフ値がそれぞれ異なっており、数字を単純に比較できない点に注意が必要です。大腸カプセル内視鏡やCTコロノグラフィーも、日本では実施できる医療機関や保険が適用される場面が限られています。ここに挙げたデータは、あくまで検査法ごとの特性を理解するための比較情報です。便潜血検査が陽性だった場合にどの検査を選ぶかは、実施可能な医療機関の状況や、個々の体調・既往歴によって変わります。気になる点があれば、精密検査を担当する医療機関で、それぞれの検査の位置づけについて相談することもできます。

こうした症状があるときは、早めの受診がすすめられる

下記に該当する場合、早めの受診がすすめられます。

  • 便に血が混じる(血便・下血)、便の表面に血液が付着する。
  • だるさや息切れなど、貧血を疑う症状が続く。
  • 便秘や下痢が続く、便が細くなる、残便感が続く。
  • お腹の張りが続く。

これらの症状は、痔など大腸がん以外の良性の病気でも起こることがあります。症状があるからといって、必ずしも重い病気があるとは限りません。

一方で、大腸がんは早期の段階では自覚症状がほとんどないことも知られています。症状がないからといって安心はできず、便潜血検査が陽性だった場合は、自覚症状の有無にかかわらず精密検査を受けることがすすめられています。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • 国立がん研究センター. 有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版. 2024.
  • 国立がん研究センター. 科学的根拠に基づくわが国の大腸がん検診を提言「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」2024年度版公開(プレスリリース). 2024.
  • 国立がん研究センター がん情報サービス. 大腸がん(結腸がん・直腸がん)について.
  • 日本消化器内視鏡学会. 市民のためのQ&A「便潜血検査で『1回だけ陽性』と言われました。内視鏡検査は受けたほうがいいのでしょうか?」.
  • Lin JS, et al. JAMA. 2021 May;325(19):1978-1998. PMID: 34003220.
  • Ye L, et al. BMC Gastroenterol. 2026 Jun;26(1):520. PMID: 42298417.
  • Wang SY, et al. World J Gastrointest Oncol. 2025 Apr;17(4):101487. PMID: 40235883.
  • Kim NH, et al. Yonsei Med J. 2017 Jan;58(1):150-157. PMID: 27873508.
  • Meseeha M, et al. StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing; 2026. PMID: 28613512.
  • Rosty C, et al. J Gastroenterol. 2013 Mar;48(3):287-302. PMID: 23208018.
  • Snook J, et al. Gut. 2021 Nov;70(11):2030-51. PMID: 34497146.

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

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