健診の結果票に「要精密検査」と書かれていた。あるいは診察室で「血圧、高いですね」と言われた。けれど、体のどこも痛くないし、いつもと変わったところはない。
高血圧のいちばん厄介なところは、そこにあります。血圧が高いこと自体には、ほとんど症状がありません。だから「困っていないのに治療の話をされる」という、落ち着かない感じが生まれます。
放っておくと何が起きるのか、下げると何がどれだけ変わるのか、そして次の受診で何を話せばいいのか。原著論文と公的な統計をもとに整理します。
この記事の要点
- 日本の成人のおよそ4人に1人が上の血圧140mmHg以上。ただし薬で下がっている人はこの数字に含まれない。
- 高血圧そのものに症状はない。問題はその先で、日本人のデータでは脳卒中の発症の4分の1以上を高血圧が説明すると推計されている。
- 上の血圧を5mmHg下げると、心筋梗塞や脳卒中などが約10%減ることが介入試験のまとめでわかっている。もともとの血圧がそれほど高くない人でも同様。
- 減塩・減量・有酸素運動は、それぞれ3〜6mmHg程度の低下効果。
- 診察室で1回測った値より、家で朝晩1週間測った平均のほうが多くを語る。次の受診に持っていくとよい。
- 受診の目安:血圧の数値が高いだけで、緊急の受診が必要になることはまれ。ただし「突然」顔が歪む・手に力が入らない・呂律が回らない(脳卒中を疑うサイン)、または胸の痛みや不快感が現れたときは、すぐに救急車を呼んでください。
それぞれ、順を追って説明します。
高血圧の人の割合
令和5年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上で収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上の人は、男性27.5%、女性22.5%でした。平均値は男性131.6mmHg、女性126.2mmHgです。
ここで、ひとつ大事な区別があります。この「140以上の割合」は、高血圧の有病率ではありません。降圧薬を飲んで140未満に下がっている人は、この数字に入ってこないからです。つまり、実際に高血圧のある人は、この割合よりも多いことになります。
ありふれていることと、放っておいてよいことは別です。次に、その先で何が起きるのかを見ていきます。
高血圧の先に起きること

ここから挙げるのは、大勢の人を長期間追いかけて調べた「観察研究」の結果です。わかるのは「血圧が高い人ではこの病気が多い」という関連であって、「血圧が高いことが原因でその病気になる」と証明したものではありません。
脳卒中
脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の中で血管が破れる脳出血、脳の表面で出血するくも膜下出血をまとめた呼び方です。日本人約1万5千人を約20年追跡した研究では、高血圧のある人は、どの型の脳卒中も1.63〜1.84倍起こしやすいという結果でした。喫煙や糖尿病の影響を差し引いたうえでの数字です。
さらにこの研究では、高血圧だけで脳卒中の発症の4分の1以上を説明すると推計されています。喫煙や糖尿病より大きく、調べられたなかで最大でした。ただしこれは仮定を置いた推計値です。「高血圧をなくせば脳卒中が4分の1減る」という意味ではなく、脳卒中の背景として高血圧がいちばん大きい、という読み方にとどめてください。
心臓や血管の病気による死亡
日本の10の研究・約7万人分のデータを統合した解析では、血圧の区分が上がるほど、心臓や血管の病気で亡くなるリスクが段階的に高くなるという関係がみられました。注目したいのは、この関係が40〜64歳でとくにはっきりしていたことです。「若いうちは多少高くても大丈夫」という感覚とは、むしろ逆の結果です。
腎臓
高血圧と慢性腎臓病(腎臓の働きが慢性的に落ちた状態)は、どちらが先とも言いにくい双方向の関係にあります。高血圧が続くと腎臓が傷み、腎臓の働きが落ちると血圧が上がりやすくなる。この循環があるため、血圧の話をするときに腎臓の数値が問題になります。
数値が高いときの受け止め方と、急ぐべきサイン
血圧の数値が高いというだけで、その日のうちに何かが起きることは、まれです。上の血圧が180mmHg以上、あるいは下の血圧が110mmHg以上であっても、臓器の障害を示す症状がなければ「重症無症候性高血圧」と呼ばれ、短期間に重大なことが起きるリスクは低いとされています。この状態では、急いで血圧を下げること自体が避けるべきとされており、数日から数週間かけてゆるやかに下げることが勧められています。
非常に高い血圧に、脳・心臓・腎臓・目・大血管の急な障害を伴った状態を「高血圧緊急症」といいますが、救急外来を受診した人全体のうち、これにあたったのは0.5%でした。
ただし、次のような症状が出たときは別です。
脳卒中を疑う症状 — 「ACT FAST」
日本脳卒中学会と日本脳卒中協会の資料では、脳卒中を疑うサインとして「ACT FAST」という合い言葉が使われています。次の3つが「突然」現れたときです。
すぐに救急車を呼んでください。
- 顔(Face) — 顔が歪む。
- 腕(Arm) — 手に力が入らない。
- 言葉(Speech) — 呂律が回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない。
症状が出た時刻(Time)を確認して、すぐに救急車を呼んでください。治療は早く始めるほど効果があるとされています。とくに大事なのは最後に何事もなく普段どおりだった時刻で、眠っている間に発症した場合などに治療の方針を左右します。
心筋梗塞を疑う症状
急性冠症候群(心筋梗塞や、その一歩手前の状態をまとめた呼び方)で救急外来を受診した人では、胸の痛みが主な訴えだったのは男性91%・女性92%でした。まず胸の症状を疑うのは理にかなっています。ただし、胸だけとは限りません。比較的よく知られているのは次の6つです。
すぐに救急車を呼んでください。
- 胸の痛みや不快感
- 息切れ
- 腕や肩の痛みや不快感
- 脱力・ふらつき・失神しそうな感じ
- あご・首・背中の痛みや不快感
- 発汗
一方、あまり知られていない症状として、次の4つが挙げられています。
- 胃や腹部の不快感
- 吐き気・嘔吐
- 頭痛
- 不安感
同じ研究に、気になる数字があります。急性冠症候群を経験した約1万5千人のうち、自分の症状を心臓が原因だと結びつけられたのは45.1%でした。知らないと気づけない、というのがこの節を置いた理由です。
症状がないときの注意
逆に、症状がないことは「血圧を放っておいてよい」という意味にもなりません。34万人以上を対象にした介入試験のまとめでは、血圧がそれほど高くない範囲にある人でも、下げたことによる心血管の病気の減り方は同じでした。
血圧を下げることの効果
ここからは、下げた場合に何がどれだけ変わるかの話です。前の章と違い、こちらは介入試験——薬を使う群と使わない群にくじ引きで分けて比べた研究——でわかっていることです。48の試験・344,716人のデータをまとめた解析では、上の血圧を5mmHg下げるごとに、心筋梗塞・脳卒中・心不全などが約10%減るという結果でした。
「10%減」だけだと大きく聞こえるので、実際の人数でも見ておきます。心血管の病気の既往がない人では、1,000人を1年間追いかけたときの発症数が31.9件から25.9件になりました。既往のある人では39.7件から36.0件です。同じ結果を、相対でみるか実数でみるかの違いです。どちらか片方だけでは、大きすぎるか小さすぎるかに見えます。

そして、もともとの血圧がそれほど高くない人でも、下げた分の効果は同じでした。なお、対象となったのは1972年から2013年に発表された試験で、日本人だけを対象にした解析ではありません。
生活習慣でできることの効果
薬の話の前に、生活のなかで変えられることが、どれくらい血圧を動かすのかを見ておきます。

「3〜6mmHg程度」は小さく見えるかもしれませんが、前の章の「上の血圧を5mmHg下げると、心筋梗塞や脳卒中などが約10%減る」にあてはめると、無視できない大きさです。減量・減酒・運動・食事のうち、どれか一つだけが特別によく効くわけではなく、いずれも同じくらいの効果を持っています。なお、いちばん下の食べ方は野菜・果物・低脂肪乳製品を増やし、塩分と脂肪を減らすもので、95%信頼区間は −4.2〜−2.3mmHg でした。減塩は「減らした分だけ下がる」という関係で単一の数値がないため、この図には入れていません。次の節で扱います。
ただし減酒には条件があります。1日2ドリンク(純アルコール24g。日本酒1合強にあたります)以下の人では、減らしても血圧の低下は確認されませんでした。これを超えて飲む人では、減らすほど下がります。なお、この研究は参加者の86%が男性でした。
減塩 — 減らした量と、下がる幅
85の介入試験をまとめた解析では、ナトリウムの摂取量と血圧はほぼ直線の関係にありました。少ない側でも多い側でも頭打ちにならず、減らした分だけ下がる、という形です。もともと血圧が高い人のほうが、減らしたときの下がり方は大きいという結果も出ています。
この研究が測っているのはナトリウムの量で、食塩の量そのものではない点には注意が必要です。また、血圧が下がることは示されましたが、この研究が心筋梗塞や脳卒中の減少を直接示したわけではありません。
日本の実態と並べてみます。令和5年の国民健康・栄養調査では、日本人の食塩摂取量の平均は9.8g(男性10.7g、女性9.1g)。国の健康づくり計画「健康日本21(第三次)」の目標は7gなので、1日あたり約3gが目安になります。
減量 — 体重の変化と、血圧の変化
BMI(体重と身長から計算する体格の指標)が平均2.27下がったとき、上の血圧が5.79mmHg下がったという解析があります。減り幅が3以上だった人では、さらに大きくなっていました(−8.54mmHg)。
ただし、対象は過体重・肥満の人で、標準体重の人に当てはまる数字ではありません。そしてBMIで2〜4という減り幅は、体重にすると5〜10kg規模です。決して小さな目標ではありません。
運動 — 有酸素運動の効果
高血圧のある910人を対象にした15の試験をまとめた解析では、24時間の平均血圧が上5.4mmHg・下3.0mmHg下がりました。効果がはっきり確認されたのは有酸素運動——歩く、自転車をこぐなど、息が弾む程度の運動を続けるもの——です。
これは「筋トレは効かない」という意味ではなく、この解析で統計的に有意にならなかった、というだけです。15試験・910人と規模が小さく、推定の幅は広くなっています。
家庭血圧の意味と測り方
次の受診に向けて、いちばん役に立つ準備の話です。
診察室でだけ血圧が高くなる白衣高血圧は、珍しくありません。「気のせい」ではなく、心血管のリスクをわずかながら確かに上げ、そのまま持続的な高血圧へ移行しやすいことが知られています。診察室で1回測った値だけでは、この見分けがつきません。
日本脳卒中学会と日本脳卒中協会の資料も、血圧を自宅で測り、血圧手帳に記録し、その手帳を医師に確認してもらうことを勧めています。測るところで終わらせず、持っていくところまでが一続きです。
測り方
- 上腕用の適切なサイズのカフ(腕に巻く帯)を、素肌に巻く。
- 排尿を済ませてから測る。
- 測る前30分は、コーヒーなどカフェインを含むものを避ける。
- 5分間座って休んでから測る。
- 足は組まず床につけ、腕を支えてカフが心臓の高さにくるようにする。
- 測っている間は話さない。
- 1分以上あけて2回。それを朝と夜、1週間続ける。使うのはその平均。
なお、家庭で測った血圧を「いくつ以上なら高い」と判断する基準は、診察室で測った値とは別に決められています。何を目安にするかは、主治医に確認してください。
降圧目標の決め方
では自分はどこまで下げればいいのか。それは、この記事が決められることではありません。
目標は人によって違うからです。年齢、ほかに持っている病気(腎臓、糖尿病、心臓)、これまでの経過によって変わります。診察室で測った値と家で測った値でも基準が違い、どちらを目安にするかも含めて主治医が判断しています。
そして、数値を下げること自体が目的ではありません。先ほどの解析の結論は、血圧の数値そのものより、心血管の病気のリスクを下げることが目的であるというものでした。同じ150mmHgでも、その人が背負っているリスクの全体像は違います。目標がひとつに決まらないのは、そのためです。
だからこそ、「自分の目標の血圧はいくつですか」は、次の受診で聞く価値のある質問です。医師に丸投げする質問ではなく、一緒に決めるための入口になります。
受診前の状況整理
高血圧の診察は、短時間で終わることが多いものです。だからこそ、持っていくものを決めておくと、話が早く進みます。
次の受診に持っていくもの
- 家庭血圧の記録(朝と夜、1週間分。手帳でもアプリでも構いません)。これが最も判断を変えます。診察室で1回測った値だけでは、白衣高血圧なのかどうかが分からないためです。
- 飲んでいる薬とサプリメント(他の病院で出ているもの、市販薬、健康食品を含む)。お薬手帳やパッケージをそのまま持っていくと早いです。
- 直近の健診結果(とくに腎臓の数値。他院のデータを持参できるとよいです)。腎臓の状態は、目標の置き方にも、生活の助言の内容にも関わります。
このほか、お酒の量を「たまに」ではなく「週◯日、◯合」と具体的に伝えられると、助言の内容が変わります。そして、いちばん気になっていること——「薬を飲みたくない」「副作用が心配」「親が脳卒中だった」——は、話してもらえないと医師には分かりません。
この記事だけで自己判断をしないでください。血圧の目標も、薬を始めるかどうかも、あなたの状況を知っている医師と一緒に決めるものです。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
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