健診で測った血圧が、いつもより高かった。でも「今日は急いで来たから」「白衣を着た人の前だと緊張するから」と思って、あまり気にしなかった。逆に、診察室では「今日は正常ですね」と言われて安心したのに、実は普段の生活の中では血圧が高いこともあります。
血圧には、こうした「診察室というその場だけでは分からない」性質があります。この記事では、その代表的な2つの状態——白衣高血圧と仮面高血圧——を紹介したうえで、なぜ家庭での測定と記録がすすめられているのか、原著論文と国内の資料をもとに整理します。
この記事の要点
- 診察室で1回測った血圧だけでは、その人の血圧の実態はわからない。
- そうした「診察室だけでは分からない」血圧のズレがある人は、心血管イベントや死亡のリスクが高いという報告がある。
- 血圧は測るたびに変わるものなので、少なくとも朝、できれば朝夕2回測ることがすすめられている。
- 毎日記録し、良い数値も悪い数値もすべて書き残すことが、診察での判断材料になる。
- 受診の目安:家庭で測った血圧の記録は診察の質を高める。数値そのもので慌てる必要は稀だが、「突然」の症状(後述)があるときは救急要請が推奨される。
それぞれ、順を追って説明します。
血圧が「そのとき」だけでは分からない理由
まず、なぜ「診察室で1回測ればいい」というわけにいかないのかを見ていきます。
血圧には、診察室でだけ実際より高く出る白衣高血圧と、逆に診察室では正常に見えるのに実際は高い仮面高血圧という、2つのよく知られた現象があります。どちらも、診察室での1回の測定だけでは見分けられません。この2つが存在するという事実そのものが、血圧が「その場」と「日常生活」で違って出うることを示しています。
以下、それぞれ何がどう分かっているのかを見ていきます。
診察室でだけ高くなる「白衣高血圧」
白衣高血圧(医師や看護師の前だと血圧が上がってしまう状態)は、めずらしいことではありません。緊張や慣れない環境への反応と考えられていますが、「気のせいだから放っておいてよい」というわけでもありません。
診察室外の血圧を調べた研究をまとめた総説では、白衣高血圧は心血管リスクを「わずかだが確かに」高めると報告されています。持続的な高血圧へ移行しやすいことも知られています。ただし、まだ治療を始めていない人と、すでに降圧薬を飲んでいる人とでは、白衣高血圧が示す意味合いが異なる可能性も指摘されています。
つまり、診察室での1回の測定だけを見て「血圧が高い」と決めてしまうと、実際より重く見積もってしまう場合がある、ということです。緊張しやすい人だけに起こるとは限らず、診察室という環境そのものへの反応と考えられているため、「気の持ちよう」で片づけられる話でもありません。
診察室では見えない「仮面高血圧」
一方で、逆のことも起こります。仮面高血圧(診察室では正常に見えても、実際の生活の中では血圧が高い状態)です。
前向きコホート研究9本・約1万5千人分のデータをまとめた解析では、診察室の血圧が正常だった人の最大3分の1が、24時間自由行動下血圧計(1日を通して自動で血圧を測る機器)で調べると仮面高血圧に該当していたと報告されています。これは特定の測定方法で調べた研究での数値であり、すべての正常血圧の人にそのまま当てはまるわけではありませんが、それでも小さくない割合です。
同じ解析では、仮面高血圧のある人は、正常血圧の人と比べて心血管イベントや全死因死亡のリスクが約3倍(オッズ比2.91、95%信頼区間2.54〜3.33)でした。持続性の高血圧(診察室でも家庭でも高い状態)と比べるとリスクはやや低いものの、正常血圧の人よりはるかに高いという結果です。オッズ比とは、ある出来事の起こりやすさを2つの集団で比べた指標で、1より大きいほど起こりやすいことを意味します。
仮面高血圧は、そのまま持続性の高血圧へ進んでいきやすいことも報告されています。なぜ起こるのかはまだ研究段階ですが、喫煙や飲酒、運動不足、仕事や家庭でのストレスといった生活習慣・環境要因が関わっている可能性が考えられています。診察室という特別な場面では出てこない要因が、日常生活の中では血圧を押し上げている、というイメージです。
問題は、仮面高血圧のある人は、診察室で「正常です」と言われて終わってしまいやすいことです。見た目の数値と、実際のリスクにずれが生じてしまいます。
白衣高血圧や仮面高血圧についてその詳細を知っておく必要はありません。血圧はそれだけ変動しやすい、ということを知ってください。
| 白衣高血圧 | 仮面高血圧 | |
|---|---|---|
| 診察室の血圧 | 高い | 正常 |
| 家庭・日常生活の血圧 | 正常 | 高い |
| 心血管リスク | 正常血圧よりわずかだが確かに高い | 正常血圧の約3倍(オッズ比2.91) |
| 見分け方 | 診察室の1回だけでは判別できない。家庭血圧またはABPMが必要 | 同上 |
こうした症状があるときは、早めに受診してください
血圧の数値が高いというだけで、その日のうちに何かが起きることはまれです。ただし、次のような症状が「突然」現れたときは別です。
すぐに救急車を呼んでください。
- 顔が歪む、手に力が入らない、呂律が回らない・言葉が出ない(脳卒中を疑うサイン。日本脳卒中学会の資料による合い言葉「ACT FAST」の一部です)。
- 胸の痛みや不快感(急性冠症候群〈心筋梗塞や、その一歩手前の状態をまとめた呼び方〉を疑うサインとして、実際に受診した人の9割以上が訴えている症状です)。
これらの症状が「突然」現れたときは、すぐに救急車を呼んでください。逆に、こうした症状がないからといって、血圧を放っておいてよいという意味でもありません。警告症状の詳しい内訳や、症状がないときの考え方は、「高血圧と診断されたら」で詳しく解説しています。
測定のタイミング — 朝、できれば朝夕2回

白衣高血圧も仮面高血圧という現象から、血圧は些細な環境の変化で簡単に変動することが分かります。だからこそ、家庭での測定が意味を持ちます。
日本高血圧学会がまとめた家庭血圧測定のガイドラインでは、朝は起床後1時間以内・排尿を済ませたあと・1〜2分安静にしたあと・服薬前・朝食前、夜は就寝直前・1〜2分安静にしたあとに測ることが推奨されています。そして、少なくとも朝1回・夜1回の測定が基本とされています。
日本脳卒中学会の資料でも、「血圧を自宅で測定(少なくとも朝、夜2回、安静にしてから測定)しましょう」と、同じ内容が呼びかけられています。国内の学会・啓発資料が揃って同じ推奨をしている点は、押さえておく価値があります。
朝がとくに重視されるのは、起床後は血圧が上がりやすい時間帯であることに加え、「服薬前・朝食前」という条件が揃えやすく、毎日同じような状況で測りやすいためです。夕方や夜は食事や入浴、飲酒などの影響を受けやすく、条件をそろえにくいという事情もあります。そのため「まず朝、余裕があれば夜も」という優先順位になります。
毎日2回続けるのが難しい週があっても構いません。大切なのは、条件をできるだけそろえて、続けられる範囲で測ることです。測る時間帯や食後・食前がバラバラだと、数値の変化が「体調の変化」なのか「測る条件の違い」なのか分からなくなってしまいます。
カフの巻き方や安静にする時間の細かい作法については、「高血圧と診断されたら」にまとめてあります。あわせてご確認ください。
記録の効用 — 「点」ではなく「線」で見る推移
測るだけでは、記録としての意味は半分です。日本高血圧学会のガイドラインは、すべての測定値を、日付・時刻・脈拍数とともに記録し、都合の悪い値を選んで捨てないことを求めています。高かった日を除外したり、良い数値だけを書き写したりすると、記録の意味がなくなってしまいます。
そして、記録は測って終わりではありません。日本脳卒中学会の資料も、「血圧手帳に血圧の数字を記録しましょう」としたうえで、「血圧手帳は、医師に確認してもらいましょう」と、記録を診察に持っていくところまでを一続きの行動としています。数日から1週間分の記録がそろって初めて、診察室で測った値との違いが見えてきます。1つの数値という「点」ではなく、日々の記録という「線」で見ることで、白衣高血圧や仮面高血圧等、診察室だけでは分からなかったことが見えてくるのです。
ちなみに、家庭で血圧を測るという考え方自体、岩手県大迫町で1986年に始まった日本の研究がもとになっています。診察室の外で測った血圧のほうが、その後の心血管の病気を予測するという知見は、この研究から世界に広がり、いまの各国のガイドラインに反映されています。家庭血圧は、決して脇役の測定方法ではありません。
記録の手段は、血圧手帳でもスマートフォンのアプリでも、どちらでも構いません。大事なのは「あとで見返せる形で、毎日欠かさず残す」ことです。機器によっては測定値を自動で記憶・印字してくれるものもあり、こうした機能があると記録の手間そのものは大きく減ります。
受診前の状況整理
血圧の記録があると、次の受診での話が具体的になります。
診察室で伝えること
- 朝晩(できれば1週間分)の家庭血圧の記録
- 記録の中でとくに高かった日・低かった日があれば、そのときの体調や状況(睡眠不足、飲酒、体調不良など、覚えている範囲でかまいません)。
診察室の値と家庭での値、どちらを重視するかも含めて、医師が記録をもとに判断します。
なお、どこまで血圧を下げるべきかという目標の話は、年齢や持病によって一人ひとり異なるため、この記事では扱いません。目標についての考え方は「高血圧と診断されたら」で解説しています。
この記事だけで自己判断をしないでください。血圧の記録をどう読むかも、治療の方針も、あなたの状況を知っている医師と一緒に決めるものです。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- Palla M, et al. Integr Blood Press Control. 2018 Jan 8;11:11-24. PMID: 29379316.
- Penmatsa KR, et al. Ulster Med J. 2020 Sep;89(2):77-82. PMID: 33093691.
- Townsend RR, et al. Curr Hypertens Rep. 2024 Oct;26(10):399-407. PMID: 38761349.
- Imai Y, et al. Hypertens Res. 2003 Oct;26(10):771-82. PMID: 14621179.
- Ohkubo T, et al. Tohoku J Exp Med. 2023 Aug 9;260(4):273-82. PMID: 37286522.
- 日本脳卒中学会(監修), 日本脳卒中協会(協力). 脳卒中の予防・発症時の対応.
- Ferry AV, et al. J Am Heart Assoc. 2019 Sep 3;8(17):e012307. PMID: 31431112.
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