健診の結果票を開いたら、HbA1cの欄に印が付いていた。血糖値はそれほど高くなかったのに、HbA1cだけが高い。前の日に食べすぎたせいだろうか、と思った方もいるかもしれません。
HbA1cは、採血したその時点の血糖値とは性質の違う数値です。この記事では、HbA1cが何を映しているのか、健診の判定や糖尿病の診断でどう使われるのか、治療の目標値がどこに置かれているのかを、日本糖尿病学会のガイドラインと厚生労働省の資料をもとに整理します。
この記事の要点
- HbA1cは、その日の血糖ではなく、過去2〜3か月の血糖の状態を映す。
- 健診では、5.6%以上が保健指導判定値、6.5%以上が受診勧奨判定値。
- 6.5%は、目の網膜症が増え始める境目として選ばれた値。
- 糖尿病の診断には、HbA1cだけでなく血糖値の確認も必要とされる。
- 日本の健診データでは、6.0〜6.1%の人の約3割が5年以内に糖尿病の基準に達した。
- 治療中の目標は、合併症予防のためには7.0%未満。高齢者には別の目標がある。
- 【受診の目安】6.5%以上は受診勧奨判定値。6.0〜6.4%でも、健診のプログラムでは精密検査がすすめられている。
受診するときに医師に伝えるべきこと
- これまでの健診のHbA1cと血糖値の推移(結果票があれば持参する)。
- 健診の採血が、空腹時だったか、食後だったか。
- のどの渇き、尿の回数の増加、体重の減少があるか。
- 家族に糖尿病の人がいるか。
- 服用中の薬(ステロイドなど)。
受診先の目安
まずは内科で相談できます。糖尿病・内分泌内科も選択肢になります。
※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。
この記事だけで自己判断をしないでください。実際の診断には、血糖値を含めた検査が必要です。
詳しい解説
ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。
HbA1cが映すもの
この章では、HbA1cが「いつの」血糖を映しているのかを説明します。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、赤血球の中にあるヘモグロビン(酸素を運ぶたんぱく質)のうち、ブドウ糖が結びついたものの割合です。血液中のブドウ糖が多い状態が続くほど、この割合は高くなります。
HbA1cは過去2〜3か月の血糖の積み重ねを映すとされ、その期間は赤血球の寿命と結びつけて説明されています。
一方、健診の血糖値は、採血したその瞬間の値です。食事の内容や、食べてからの時間によって大きく動きます。HbA1cは数か月の積み重ねを映す数値なので、前の日の食事1回だけで大きく変わるものではないと考えられます。
数か月の状態を平均血糖に置きかえると、どのくらいになるのでしょうか。白人が8割を占める約500人の血糖を約3か月間こまかく測った研究では、HbA1c 7%は平均血糖およそ154 mg/dLに相当しました。ただし、同じHbA1cでも人によって平均血糖には幅があり、この値は目安です。
1回の採血で数か月分の状態がわかることから、HbA1cは健診にも、糖尿病の診断にも使われています。
健診の判定区分
この章では、健診の結果票の「判定」が、どの数値で分かれているかを説明します。
厚生労働省の健診・保健指導のプログラムでは、HbA1cを次の3つに区分しています。
| HbA1c | 判定 |
|---|---|
| 5.5%以下 | 基準範囲 |
| 5.6〜6.4% | 保健指導判定値 |
| 6.5%以上 | 受診勧奨判定値 |
保健指導判定値は、生活習慣の改善が求められる段階です。同じプログラムでは、6.0〜6.4%は生活習慣の改善に加えて精密検査を、5.6〜5.9%は生活習慣の改善を基本に、ほかのリスクが重なっていれば精密検査を、とすすめています。
受診勧奨判定値の6.5%以上で、ふだん医療機関にかかっていない人に対しては、同じプログラムの文例に「すぐに受診してください」とあります。
保健指導の対象になりやすい状態の1つに、メタボリックシンドロームがあります。くわしくは「メタボリックシンドロームの記事」で説明しています。
糖尿病の診断におけるHbA1cの役割
この章では、HbA1cが糖尿病の診断にどう使われるかを説明します。
6.5%という境目の根拠
6.5%という値は、目の合併症をもとに選ばれています。米国・欧州などの糖尿病の学会が合同で設けた国際専門委員会は、網膜症(目の奥の網膜の血管が傷む病気)を手がかりにこの値を検討しました。中等度以上の網膜症を見分けるのに最も適した値が6.5%で、6.5%未満の2万人あまりでは、中等度の網膜症はほとんど見られませんでした。
血糖値とHbA1cの組み合わせ
日本糖尿病学会のガイドラインでは、次のいずれかにあてはまる場合を「糖尿病型」と呼びます。
- 血糖値: 空腹時126 mg/dL以上、ブドウ糖負荷試験(ブドウ糖の液を飲んで血糖の上がり方をみる検査)の2時間値200 mg/dL以上、随時(食事の時間に関係なく測った値)200 mg/dL以上のいずれか
- HbA1c: 6.5%以上
同じ採血で、血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば、1回の検査で糖尿病と診断されます。血糖値が糖尿病型で、のどの渇きなどの典型的な症状か、確実な網膜症がある場合も、その1回で診断されます。
一方で、ガイドラインは「HbA1cのみの反復検査による診断は不可」としています。2回のうち1回は、必ず血糖値で糖尿病型を確かめることになっており、HbA1cが何度6.5%を超えても、それだけでは糖尿病の診断にはなりません。
血糖値とHbA1cの一方だけが糖尿病型だった場合は、なるべく1か月以内に再検査をします。初めの検査でHbA1cだけが糖尿病型だった場合は、再検査で血糖値を測ることが必須です。再検査でも診断に至らなかった場合は「糖尿病の疑い」として、3〜6か月以内に血糖値とHbA1cを測り直すとされています。

健診でHbA1cが6.5%以上だった場合も、医療機関では血糖値をあわせて確かめることになります。
保健指導判定値から糖尿病への進展
この章では、HbA1cが5.6〜6.4%だった人が、その後どのくらい糖尿病の基準に達しているのかを紹介します。
北九州市の健診を受けた、糖尿病と診断されていない約5万3千人を最長5年追跡した研究があります。HbA1cが一度6.5%以上になっただけでも「糖尿病の発症」に数えた研究で、その結果は次のとおりでした。
| 健診時のHbA1c | 5年以内に基準に達した人の割合 |
|---|---|
| 5.5%以下 | 3.6% |
| 5.6〜5.7% | 8.9% |
| 5.8〜5.9% | 13.8% |
| 6.0〜6.1% | 27.5% |
| 6.2〜6.3% | 51.6% |
| 6.4% | 67.8% |
保健指導判定値の範囲の中でも、HbA1cが高い人ほど、その後に基準に達した割合が高くなっていました。とくに6.0%を超えると、その割合は大きく上がっています。
合併症予防の目標値
この章では、糖尿病と診断されたあと、HbA1cをどこまで下げることが目標とされているかを説明します。
日本糖尿病学会のガイドラインは、成人の血糖コントロールの目標を3つの段階で示しています。
| 目標 | HbA1c |
|---|---|
| 血糖の正常化を目指す際の目標 | 6.0%未満 |
| 合併症予防のための目標 | 7.0%未満 |
| 治療の強化が難しい際の目標 | 8.0%未満 |
中心になるのは、合併症予防のための7.0%未満です。ガイドラインはその根拠の1つに、熊本スタディという研究を挙げています。HbA1cが6.9%未満であれば、細小血管症(目・腎臓・神経の細い血管に起こる合併症)が出にくかったという研究です。
6.0%未満は、食事療法・運動療法だけで達成できる場合や、薬を使っていても低血糖などの副作用なく達成できる場合の目標です。8.0%未満は、低血糖などのために治療を強めにくい場合の目標とされています。
実際の目標は、年齢、糖尿病になってからの期間、合併症の状態、低血糖の危険などを考えて、一人ひとり決めるとされています。65歳以上の高齢者には、この3段階とは別の考え方で目標が定められています。
こうした症状があるときは、早めの受診がすすめられる
健診などで血糖値やHbA1cが高いと言われたことがあり、下記に該当する場合は、早めの受診がすすめられます。
- のどがよく渇き、水分をたくさんとるようになった。
- 尿の回数や量が増えた。
- 体重が減ってきた。
日本糖尿病学会のガイドラインは、これらを糖尿病の典型的な症状としています。
あてはまるからといって、糖尿病と決まるわけではありません。診断は、前述のとおり血糖値の検査で確かめられます。
反対に、あてはまらないから大丈夫、ということでもありません。健診の受診勧奨判定値(6.5%以上)は、症状の有無を条件にしていません。症状がなくても、6.5%以上という結果そのものが、受診をすすめる目安になっています。
出典
出典の選び方については編集方針をご覧ください。
- Sherwani SI, et al. Biomark Insights. 2016;11:95-104. PMID: 27398023.
- Nathan DM, et al. Diabetes Care. 2008 Aug;31(8):1473-8. PMID: 18540046.
- 厚生労働省. 標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版). 第2編 別紙5. 2024.
- International Expert Committee. Diabetes Care. 2009 Jul;32(7):1327-34. PMID: 19502545.
- 日本糖尿病学会(編). 糖尿病診療ガイドライン2024. 第1章 糖尿病診断の指針. 2024.
- Kawahara T, et al. PLoS One. 2015;10(4):e0122698. PMID: 25853519.
- 日本糖尿病学会(編). 糖尿病診療ガイドライン2024. 第2章 糖尿病治療の目標と指針. 2024.
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