人間ドックは健診より効果があるのか——エビデンスから見る意義と使い方

人間ドックを毎年受けている、あるいはこれから受けようか迷っている——費用も時間もかけている分、市区町村の健診より効果が高いはずだと考えている人は少なくないと思います。ですが、「人間ドックという検査をまとめて受ける仕組み」そのものに、病気で亡くなるリスクを下げるという意味での効果は証明されているのでしょうか。腫瘍マーカーやPET検診といったオプション検査は、追加する価値があるのでしょうか。

こうした疑問は、実施している検査の項目数や金額とは別に、それぞれの検査がどんな根拠を持っているかを知らないままでは答えが出ません。ここでは、国内外のエビデンスから、人間ドックの意義とその使い方を整理します。

この記事の要点

  • 人間ドックは任意型検診で、法定健診とは目的・実施主体が異なる。
  • 健康チェックのパッケージが死亡率を下げる強い根拠は確立していない。
  • 腫瘍マーカーなどの多くは偽陽性が多く、集団のがん検診には採用されていない。
  • 血圧・血糖・脂質などの基本項目は、継続して数値を追うことに意味がある。
  • 法定健診で基本項目を確認できている人には、人間ドックは必須ではない。
  • 【受診の目安】人間ドックで異常が見つかったときは、その結果を持って医療機関を受診することがすすめられている。

受診するときに医師に伝えるべきこと

  • これまでの健診・人間ドックの結果の推移(持参できる数値があれば)。
  • 家族にがんや心臓・血管の病気になった人がいるか。
  • 追加を考えているオプション検査があれば、その検査名。
  • いちばん気になっていること。

受診先の目安

まずは内科で相談できます。

※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。

この記事だけで自己判断をしないでください。結果をどう受け止め、どの検査を選ぶかは、あなたの状況を知っている医師と一緒に決めるものです。

詳しい解説

ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。

※記事中の感度・特異度の数字の読み方は、感度と特異度の解説ページで説明しています。

目次

人間ドックと法定健診の違い

まず整理しておきたいのが、人間ドックと法定健診(特定健診や事業者健診など)の違いです。
「人間ドック」という言葉は法令上の用語ではなく、医療機関などが独自に提供する、複数の検査を組み合わせた健康チェックプログラムの通称です。
一方、特定健診・事業者健診は法律で実施が定められた健診で、こちらは一般に「法定健診」と呼ばれます。

ここで、よく似た2つの言葉「健診」と「検診」の違いも押さえておきます。
健診は、特定の病気を決めずに体の状態全般を確認する検査で、特定健診・事業者健診・人間ドックはいずれもこちらに含まれます。
一方、検診は、がん検診のように特定の病気を早期に見つけることを目的とした検査です。

国立がん研究センターは、がん検診を「対策型検診」と「任意型検診」の2種類に分類しています。

対策型検診とは、市区町村などの公的機関が、集団全体の死亡率を下げることを目的に行う検診です。対象は一定の年齢範囲の住民など特定の集団で、受診者は基本的に無症状の人です。検診の利益(早期発見のメリット)が不利益(偽陽性による精密検査の負担など)を上回るかどうかは、公共政策として社会全体で評価されます。

一方、任意型検診はそれ以外のすべての検診を指し、人間ドックもここに含まれます。対象は無症状であることのみが要件で、実施主体は医療機関や人間ドック施設、保険者など多様です。利益と不利益をどう判断するかは個人に委ねられ、その判断材料を提供する責任は検診を提供する側にあるとされています。

対策型検診任意型検診(人間ドックを含む)
目的集団全体の死亡率減少個人の健康状態の把握
対象特定の年齢範囲の住民など無症状であることのみが要件
実施主体市区町村などの公的機関医療機関・人間ドック施設・保険者など
利益と不利益の判断主体公共政策として社会全体で評価個人が判断(提供側に情報提供の責任)
出典: 国立がん研究センター がん対策研究所.「対策型検診と任意型検診」. http://canscreen.ncc.go.jp/kangae/kangae0.html をもとに作成

人間ドックは、この枠組みの中では「個人が選んで受ける、検査項目の幅が広い任意型検診」という位置づけになります。項目数が多いこと自体は、対策型検診より優れていることを意味しません。対策型検診が「集団全体で見て利益が不利益を上回る」ことを条件に項目を絞り込んでいるのに対し、人間ドックはその制約を受けずに項目を選べる分、個々の検査がどこまでの根拠を持っているかを、受ける側が把握しておく必要があります。次の章では、その「幅の広さ」が実際にどの程度の効果を持つのかを見ていきます。

「検査の多さ」と「効果」は別物

複数の検査項目をまとめて行う「総合的な健康チェック」に、死亡率を下げる効果があるかどうかを検証した、最も強いエビデンスがコクランの系統的レビューです。コクラン(Cochrane)とは信頼性の高い情報を提供する非営利の国際医療情報ネットワークのことです。1963年から1999年にかけて開始された15件のランダム化比較試験(RCT)、対象者は約25万人にのぼります。

結果は、全死亡(相対リスク1.00、95%信頼区間0.97-1.03、11試験・233,298人・21,535件の死亡)、がん死亡(相対リスク1.01、95%信頼区間0.92-1.12、8試験・139,290人)、心血管死亡(相対リスク1.05、95%信頼区間0.94-1.16、9試験・170,227人)のいずれについても、統計学的に意味のある差は認められませんでした。虚血性心疾患や脳卒中についても同様です。

ここでいう相対リスクとは、健康チェックを受けたグループと受けなかったグループの死亡リスクを比較した数値です。1.00であれば両者に差がなく、95%信頼区間に1.00をまたぐ範囲が含まれていることは、その差が誤差の範囲を超えて確認されなかったことを意味します。今回のすべての項目で、この信頼区間は1.00をまたいでいました。なお、このレビューでは全体の絶対リスクの差(何人あたり何人減るか、という形の数値)までは統合されていないため、ここでは示せません。

このレビューに含まれる試験の多くは、1963年から1999年にかけて欧米で開始されたものです。検査項目や医療体制が現在の日本の人間ドックとは異なるため、この結果をそのまま日本の状況に当てはめることには注意が必要です。

オプション検査の考え方

人間ドックでは、基本項目に加えて腫瘍マーカーやPET検診といったオプション検査を追加できることが少なくありません。これらの検査は、集団向けのがん検診としては採用されていないものが多く、その理由を知っておくことが検査選びの材料になります。

検査には、例えば「陰性」であることの価値が高い除外診断に適した検査や、「陽性」であることの価値が高い確定診断に適した検査、といったように、それぞれ性質があります。その性質を説明するのが検査の「感度」と「特異度」という指標です。

こういった検査の性質を知ると、腫瘍マーカーやPETが、無症状の人から疾患を拾い上げるいわゆるスクリーニング検査として最適とは言えない理由が見えてきます。

腫瘍マーカーが検診に使われない理由

腫瘍マーカーとは、がん細胞が作る、あるいはがんに反応して体内で増える物質を血液検査で調べるものです(CEA、CA19-9などが代表例)。国立がん研究センターは、こうした腫瘍マーカーについて「偽陰性率や偽陽性率が高いためにがん検診には利用されていない」と明記しています。偽陰性とは、がんがあるのに検査では異常なしと出ること、偽陽性とは、がんがないのに検査では異常ありと出ることです。

腫瘍マーカーに関するある総説では、これらの検査はがんの診断補助や治療効果の判定、術後の経過観察には有用な場面があるものの、無症状の一般集団に対するスクリーニング検査として単独で使うことはすすめられていないとされています。つまり、すでにがんと分かっている人の経過を追う用途と、まだ症状のない人からがんを見つけ出す用途とでは、同じ検査でも求められる精度が異なるということです。

PET検診の的中率

人間ドックのオプションとして知られるPET検診についても、国内のデータがあります。無症状者1,762名を対象にFDG-PET検診を行った研究では、感度84.8%、特異度86.8%という数値に対し、陽性的中率は10.1%(28/277)でした。

感度とは、実際にがんがある人のうち検査で正しく陽性と判定できる割合、特異度とはがんがない人のうち正しく陰性と判定できる割合です。この2つだけを見ると精度は高そうに見えますが、陽性的中率——検査で陽性となった人のうち実際にがんがある割合——は別の指標です。これは、PET検診で「陽性」と判定された人のうち、実際にがんが見つかるのはおよそ10人に1人にとどまり、残りの9割は精密検査を受けてもがんではなかったことを意味します。感度・特異度が高くても陽性的中率が低くなるのは、対象が無症状の集団であり、そもそもがんを持つ人の割合が少ないためです。

精密検査自体にも、身体的な負担や心理的な不安、追加の医療費がかかります。オプション検査を追加するかどうかは、「陽性が出たときに、その先の精査まで受ける覚悟があるか」も含めて考える材料になります。

腫瘍マーカーとPET検診の特性比較
出典: 国立がん研究センター がん対策研究所.「がん検診Q&A 医療従事者向け」. Duffy MJ, et al. Med Princ Pract. 2013;22(1):4-11. PMID: 22584792. Sengoku T, et al. Int J Clin Oncol. 2014 Dec;19(6):989-97. PMID: 24481919. をもとに作成

人間ドックの意義

ここまでの内容だけを見ると、「人間ドックには意味がないのではないか」と感じるかもしれません。しかし、コクランレビューが示したのは「総合的な健康チェックパッケージ全体として、集団の死亡率を下げるという意味でのエビデンスが確立していない」ということであり、人間ドック自体が無意味だということではありません。

人間ドックの基本検査項目である血圧・血糖・脂質・BMIなどは、対策型検診(がん検診)では測定されない項目です。血圧・血糖・脂質を法定健診(特定健診・事業者健診)で継続的に確認できている人にとっては、これらの項目に関して人間ドックが必須というわけではありません。一方、法定健診を受ける機会がない人や、基本項目に加えてより詳しい検査を選びたい人にとっては、人間ドックが基本項目を確認・記録する手段になります。血圧・血糖・脂質・BMIといった基本項目は、健診の現場で広く用いられている標準的な検査項目です。

「効果が証明されていない」ことは「効果がないと証明された」こととイコールではありません。総合的な健康チェックパッケージ全体としての死亡率減少効果は確立していない一方で、個々の基本項目を継続的に把握すること自体には、これまで積み上げられてきた別のエビデンスに基づく意味があります。人間ドックを「受けるか受けないか」を単純な二択で考えるのではなく、「どの項目を、どのくらいの間隔で、どう活用するか」という使い方の問題として捉えることが、この章で伝えたいことです。

すすめられる使い方

ここまでの内容を踏まえると、人間ドックの使い方としては、健康診断の基本項目(血圧・血糖・脂質・BMIなど)を土台に考え、オプション検査は中身を理解したうえで選ぶという姿勢が現実的です。「検査項目が多いほど安心」という選び方ではなく、それぞれの項目が何を目的にしていて、どの程度の根拠を持つ検査なのかを踏まえて選ぶことが、この記事のここまでの内容から導かれる考え方です。

根拠の強さによる項目の区別

血圧・血糖・脂質といった基本項目は、健康診断でも扱われ、継続的に追跡する意味があるという前提で使われています。一方、腫瘍マーカーやPET検診のようなオプション項目は、偽陽性の多さから集団向けのがん検診には採用されていない検査です。同じ「検査項目」として並んでいても、根拠の強さが異なることを踏まえて選ぶことがすすめられます。

申し込みの段階でオプション検査の説明を受けるときは、「その検査が何を目的としているか」「陽性だった場合にどのような精密検査に進むことになるか」まで確認しておくと、結果が出たあとに慌てずに済みます。

結果の解釈やオプション選択に迷ったとき

どの基本項目を優先すべきか、どのオプション検査を追加すべきかは、年齢・性別・家族歴・これまでの健診結果によっても変わります。人間ドックの結果表の見方やオプション選択について迷う場合は、医療機関で相談することがすすめられます。特に、複数回の人間ドックで同じ項目の数値が悪化傾向にある場合や、オプション検査で異常を指摘された場合は、結果表だけで判断せず、実際に数値を持参して相談することが現実的な使い方です。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • Krogsbøll LT, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan;1(1):CD009009. PMID: 30699470.
  • Sengoku T, et al. Int J Clin Oncol. 2014 Dec;19(6):989-97. PMID: 24481919.
  • Duffy MJ, et al. Med Princ Pract. 2013;22(1):4-11. PMID: 22584792.
  • 国立がん研究センター がん対策研究所.「対策型検診と任意型検診」. http://canscreen.ncc.go.jp/kangae/kangae0.html
  • 国立がん研究センター がん対策研究所.「がん検診Q&A 医療従事者向け」. http://canscreen.ncc.go.jp/qanda/iryou.html
  • 日本人間ドック・予防医療学会.「検査表の見方」(基本検査項目). https://www.ningen-dock.jp/other_inspection/

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

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