「肝機能の数値」が引っかかったとき — 何が起きているのか、何が原因か

健診結果に「AST 45」「γ-GTP 68」のような数字と、その横に小さく「要再検査」の文字を見つけたことはないでしょうか。何が起きているのか分からないまま、漠然とした不安だけが残ってしまう人も少なくありません。

肝機能の数値の異常は、原因がひとつに絞れないことが多く、日々の生活習慣と結びついていることも少なくありません。

だからこそ、数値が何を示しているのかを正しく知ることが、次の一歩を考えるための最初の材料になります。この記事では、肝機能の数値が示すものと、代表的な原因を整理します。

この記事の要点

  • 肝機能の異常は、脂肪肝・アルコール・薬・ウイルスなど原因が重なることも多い。
  • 多い原因の一つは脂肪肝(MASLD)で、体重の3〜5%の減量で改善するとされる。
  • MASLDの死因は、肝臓の病気より心血管疾患や肝臓以外のがんが多いとされる。
  • 過剰飲酒の目安は1日純エタノール60g以上、女性などは40g程度でも肝障害が起こりうる。
  • 薬(市販薬・サプリメント含む)やウイルスも、見逃されやすい原因。
  • 【受診の目安】黄疸(皮膚や白目が黄色い)、意識がもうろうとする、いつもと様子が違うなどは速やかな受診、数値の異常だけでも原因を調べる受診がすすめられている。

受診するときに医師に伝えるべきこと

  • 服用中の薬・サプリメント・市販薬(いつから飲み始めたかも含む)。
  • 飲酒量(お酒の種類・量・頻度。「1日どれくらい」を具体的に)。
  • 体重の変化や運動習慣(最近増えた・減った体重、運動の頻度など)。
  • これまでの健診結果の推移(以前の健診結果があれば持参する)。
  • いちばん気になっていること(「お酒のせいか心配」「体重が増えたことと関係あるか」など)。

受診先の目安

まずは内科で相談できます。肝機能の異常をくり返し指摘される場合は、消化器内科も選択肢になります。

※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。

この記事だけで自己判断をしないでください。

詳しい解説

ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。

目次

肝機能の数値が表すもの

まず、健診で指摘される「肝機能の数値」が、実際には何を表しているのかから見ていきます。

健診でよく見る項目には、AST・ALT(肝臓の細胞に多く含まれる酵素)、ALP・γ-GTP(胆管に関わる酵素)、ビリルビンなどがあります。「肝機能検査」と呼ばれることが多いのですが、AST・ALTが表しているのは肝臓の“働き”そのものではなく、肝臓の細胞が壊れて漏れ出した量です。これに対して、アルブミンやPT(プロトロンビン時間)といった項目は、肝臓が実際に働けているかどうか、つまり本来の意味での「機能」に近いものを反映しています。健診結果を見るときは、この違いを頭に置いておくと、数値の意味がつかみやすくなります。

異常のパターンは大きく2つに分かれます。ひとつは、肝臓の細胞そのものが壊れることで起こる、AST・ALTが中心に上がる「肝細胞障害型」。もうひとつは、胆汁の流れが滞ることで起こる、ALP・ビリルビンが中心に上がる「胆汁うっ滞型」です。

検査の基準範囲は、健康な人の測定値のばらつきから統計的に決められているため、健康な人でも一定の割合は基準範囲の外に出ます。数値がわずかに外れているだけで、ただちに病気を意味するわけではありません。ただし、上昇のパターンや程度によって、その後の考え方は変わってきます。どのパターンに近いか、どの程度の上昇かによって、原因の絞り込み方や急ぎ具合が変わってくる、と捉えておくとよいでしょう。

数値が上がる原因

肝機能の数値が引っかかったとき、原因としてどのようなものが考えられるのでしょうか。

肝酵素の上昇は、健診や診療の場でよくみられる所見です。しかし、症状のない人、つまり健診で偶然見つかった人への評価については、標準化された決まった手順があるわけではないとされています。原因は正常な範囲内の変動のこともあれば、何らかの肝障害を反映していることもあります。

代表的な原因には、脂肪肝、お酒の影響、薬剤(市販薬・サプリメント含む)、ウイルス性肝炎などがあり、これらが単独ではなく重なって影響していることも少なくありません。たとえば、体重が増えたタイミングと、飲酒量が増えたタイミングが重なっていれば、脂肪肝とアルコールの両方が影響している可能性もあります。原因ごとに、数値の上がり方の傾向にも違いがあります。

状態AST/ALTALPビリルビン
脂肪肝正常〜軽度上昇(ALT優位)正常〜軽度上昇進行例で上昇
アルコール性肝炎上昇(AST優位が特徴)上昇上昇
ウイルス性肝炎急性で著明上昇、慢性で軽度上昇上昇慢性例で上昇
薬剤性肝障害軽度〜著明上昇上昇上昇
出典: Kalas MA, et al. World J Hepatol. 2021 Nov;13(11):1688-98. PMID: 34904038. のデータをもとに作成

たとえば、ALTがASTより優位に上がっていれば脂肪肝の可能性が、ASTがALTより優位に上がっていればお酒の影響が、それぞれ相対的に考えやすくなります。ただし、これはあくまで傾向であり、この表だけで原因を特定できるわけではありません。

このように、肝機能の数値が引っかかったからといって、それだけで重い病気を意味するわけではありません。多くの原因が並立しうる、非特異的な所見だということがまず押さえておきたい点です。なかでも頻度が高いのが、脂肪肝とお酒の影響です。次の章から、順に見ていきます。

最も多い原因 — 脂肪肝と「MASLD」という新しい呼び方

肝機能の数値異常の原因として、頻度が高いのが脂肪肝です。

「NAFLD」から「MASLD」への呼び方の変更

脂肪肝は、国際的には長年「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれてきましたが、2023年に国際的な専門家の合意として「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」という新しい呼び方に変わりました。変更の背景には、「非アルコール性」「脂肪性」という言葉が、患者にとって負担に感じられるという指摘がありました。236名の国際的な専門家による合意形成の結果、7割以上が旧名称は変更が必要なほど問題があると回答しています。新しい呼び方は、肥満、血糖値の異常、高血圧、脂質異常など、代謝に関わる危険因子のうち1つ以上を伴うことを条件として定義されています。単なる呼び名の変更にとどまらず、脂肪肝が肥満や糖尿病、高血圧などと同じ、代謝の問題として捉え直されたことを示す変化といえます。

健診での意味

脂肪肝を放置すると一部の症例でMASH・肝硬変・肝細胞がんへ進行しうること、MASLD患者の死因は肝臓の病気そのものよりも心血管疾患や肝臓以外のがんの方が多いことを示した図
出典: Rinella ME, et al. Hepatology. 2023 May;77(5):1797-1835. PMID: 36727674. のデータをもとに作成

脂肪肝は自覚症状に乏しく、健診の血液検査や腹部エコーで初めて指摘されることが多い病態です。だからこそ、数値が引っかかったタイミングそのものが、生活習慣を見直すきっかけになります。数値がまだ軽度のうちに手を打てるかどうかが、その後の経過を左右すると考えられています。

米国の診療ガイダンスでは、脂肪肝を放置した場合、多くは軽度の変化にとどまるものの、一部の症例ではMASH(脂肪肝に炎症を伴った状態)、さらに肝硬変や肝細胞がんへと進展することがあるとされています。

別の角度から見ると、米国の診療ガイダンスでは、MASLD患者の死因は、肝臓の病気そのもの(肝硬変や肝がん)による死亡よりも、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)や肝臓以外のがんによる死亡のほうが多いとされています(この内訳は米国のガイダンスによるものです)。つまり、生活習慣の是正や健診の実施は、肝疾患の進行を防ぐという意味だけでなく、同じ生活習慣を基盤とする心血管疾患やがんの発症予防、早期発見・早期治療につとめるという意味でも重要だといえます。

ただし、これは脂肪肝と死因との「関連」を示した報告であり、脂肪肝そのものを改善すれば心血管疾患やがんによる死亡が減る、ということまで証明したものではありません。脂肪肝の背景にある生活習慣は、心血管疾患やがんの危険因子でもあるため、両者が結びついて観察されている可能性があります。生活習慣の是正が脂肪肝以外の病気の予防にもつながりうることは示唆されますが、脂肪肝の数値そのものを改善すれば死亡率が下がると断定できるわけではない、という点には留意が必要です。

生活習慣の見直し

脂肪肝の改善に必要な減量の目安(体重の3〜5%で脂肪の蓄積の改善、10%超でMASH・線維化の改善)と、週150分以上の中強度の運動の目安を示した図
出典: Rinella ME, et al. Hepatology. 2023 May;77(5):1797-1835. PMID: 36727674. のデータをもとに作成

米国の診療ガイダンスでは、体重や運動について具体的な目安が示されています。脂肪の蓄積(脂肪肝そのもの)の改善には体重の3〜5%の減量、MASH(炎症を伴う状態)や線維化(肝臓の硬さ)の改善にはより大きな減量(10%超)が一般に必要とされ、脂肪肝の予防・改善には週150分以上の中強度の運動が挙げられています(これらの数値は米国のガイダンスによるものです)。減量は、必ずしも短期間で一気に行う必要はなく、時間をかけて着実に達成することが重視されています。

国内の診療ガイドラインでも、食事・運動による減量が有用とされる枠組みが示されています。

お酒の影響 — アルコール性肝障害と「純エタノール60g」

続いて、お酒がどのように肝臓に影響するのかを見ていきます。

日本の診断基準では、1日平均で純エタノール60g以上の飲酒が続く状態を、アルコール性肝障害の原因となりうる「過剰の飲酒」の目安としています。ただし、女性やお酒に弱い体質(ALDH2という酵素の働きが弱いタイプ)の人では、1日40g程度の飲酒でも肝障害を起こしうるとされており、60gという数字が「それ未満なら安全」を意味するわけではありません。同じ診断基準では、禁酒によって血液検査の数値(AST・ALT・γ-GTP)がはっきりと改善することも、アルコールが原因かどうかを見極める手がかりの一つとされています。

純アルコール量は、「酒の量(mL)×度数(%)÷100×0.8」で計算できます。代表的なお酒の目安量にあてはめると、下表のようになります。

お酒の種類目安量度数純アルコール量
ビール500mL(中瓶・ロング缶1本)5%約20g
日本酒180mL(1合)15%約22g
ワイン120mL(グラス1杯)12%約12g
焼酎180mL(1合)25%約36g
出典: アルコール医学生物学研究会(JASBRA)アルコール性肝障害診断基準/厚生労働省 e-ヘルスネット 飲酒量の単位 の計算式をもとに作成(度数は商品によって差があるため、あくまで目安です)

ビール中瓶・ロング缶(500mL)を3本飲めば、それだけで60gに達する計算になります。自分の普段の飲酒量が、これらのおおよそ何本・何杯分にあたるかを当てはめてみると、60g・40gという基準との距離感がつかみやすくなります。

国によって基準の立て方は異なり、たとえば米国では単位や目安量の考え方が日本とは異なります。

そのほかに知っておきたい原因 — 薬剤とウイルス

脂肪肝やお酒のほかにも、見逃されやすい原因があります。

薬剤性肝障害

処方薬だけでなく、市販薬やサプリメント、健康食品が原因になることもあります。頻度は高くありませんが、急性肝不全の原因の中では大きな割合を占めるとされています。診断は他の原因を除外しながら進められ、いつからどの薬・サプリメントを飲み始めたかという情報が重要になります。新しく飲み始めたものがあれば、それも数値の変化と結びつけて考える材料になります。

ウイルス性肝炎

B型・C型の肝炎ウイルスも、肝機能の数値異常の原因になりえます。感染していても自覚症状がないまま長期間経過することがあり、健診で初めて指摘されるケースも珍しくありません。治療をせずに経過すると、慢性の肝炎から肝硬変や肝細胞がんへ進行することがある一方、国内ではそれぞれ治療のためのガイドラインが整備されており、抗ウイルス薬による治療によって進行を防げるようになってきています。自覚症状がない段階で見つけて診断すること自体に、治療につなげるという意味があります。健診の血液検査で、ウイルスの有無を調べることができます。

頻度は高くなくても、服用中の薬やウイルスの有無は、原因を調べるうえで欠かせない情報です。

こうした症状があるときは、早めの受診がすすめられる

ここまで見てきたように、肝機能の数値異常の多くは、軽度の上昇にとどまり、生活習慣の見直しや原因の特定で対応できます。ただし、なかには急いだほうがよい状態もあるため、その見分け方をここでまとめておきます。

下記に該当する場合、早めの受診がすすめられます。

  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)。
  • 意識がもうろうとする、いつもと様子が違う。
  • 上記に加えて、強い倦怠感や吐き気を伴う。

重度の肝機能異常に、黄疸や意識の変化(肝性脳症)を伴う状態は「急性肝不全」と呼ばれ、死亡リスクはおよそ40〜80%と報告されています。もともと肝臓の病気がなかった人に急に起こることもある状態で、原因は薬剤やウイルス、血流の低下など多岐にわたるとされています。この数値は、黄疸や意識の変化という明確な症状を伴う場合の話であり、軽度の数値異常だけでこの状態を心配する必要はありません。

一方で、肝機能の数値異常は自覚症状に乏しいことが多く、症状がないまま脂肪肝や慢性の肝疾患が進行することもあります。数値の異常が続く場合は、症状の有無にかかわらず、原因を調べるために医療機関を受診することがすすめられています。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • Kalas MA, et al. World J Hepatol. 2021 Nov;13(11):1688-98. PMID: 34904038.
  • Malakouti M, et al. J Clin Transl Hepatol. 2017 Dec;5(4):394-403. PMID: 29226106.
  • Rinella ME, et al. Hepatology. 2023 Dec;78(6):1966-86. PMID: 37363821.
  • Rinella ME, et al. Hepatology. 2023 May;77(5):1797-1835. PMID: 36727674.
  • 日本消化器病学会・日本肝臓学会(編). NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版). 南江堂; 2020.
  • アルコール医学生物学研究会(JASBRA). アルコール性肝障害診断基準.
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット. 飲酒量の単位.
  • Bertha M, et al. Clin Liver Dis (Hoboken). 2021 Jun;17(6):418-23. PMID: 34386207.
  • Hosack T, et al. Ther Adv Gastroenterol. 2023 Mar;16:17562848231163410. PMID: 36968618.
  • 日本肝臓学会. B型肝炎治療ガイドライン(第5版). 2026.
  • 日本肝臓学会. C型肝炎治療ガイドライン(第8.3版). 2024.

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

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