動悸 ―不整脈の割合とSmart watchの有用性

じっとしていても心臓がドキドキする。運動していないのに脈が速くなる、あるいは脈が一瞬飛ぶような感覚がある——動悸は、多くの人が一度は経験したことのある症状です。

ほとんどは心配のいらないものですが、なかには命に関わる不整脈が隠れていることもあります。厄介なのは、動悸を感じているその瞬間だけでは、心配のいらないものかどうかを自分で見分けられない、という点です。

この記事の要点

  • 動悸で救急外来を受診し、治療が必要だったのは4割弱(欧州の1施設の研究)。
  • 不整脈は一時的なことが多く、診察時の心電図には何も映らないことも多い。
  • 心臓以外にも、不安やパニック発作のような要因が動悸の原因になることがある。
  • Smart watchは発作の瞬間を記録できるが、確定診断の代わりにはならない。
  • 【受診の目安】失神を伴う、心臓病の既往がある、50歳以上、脈が1分間に100回を超える状態が続く場合は、早めの受診がすすめられている。

受診するときに医師に伝えるべきこと

  • 動悸のリズムは規則的か、バラバラな不規則か。
  • 動悸をいつから、どんなとき(安静にしているときか、体を動かしたときか)に感じるか、どのくらい続くか。
  • 動悸以外に、最近気になる症状(むくみ、息切れ、汗をかきやすい、暑がりなど)はあるか。
  • 心臓の病気にかかったことがあるか、現在服用している薬やサプリメント(甲状腺の薬、カフェインを含むものなど)。
  • 動悸とともに、意識を失ったこと(失神)や胸の痛みを伴ったことがあるか。

受診先の目安

まずは内科で相談できます。動悸をくり返す、脈の乱れを指摘されたといった場合は、循環器内科も選択肢になります。

※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。

この記事だけで自己判断をしないでください。動悸の原因はさまざまで、実際の診断には問診や検査が必要です。

詳しい解説

ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。

※記事中の感度・特異度の数字の読み方は、感度と特異度の解説ページで説明しています。

目次

救急外来を動悸で受診した場合の内訳

動悸を感じたときに知りたいのは、それが治療を必要とするものかどうかです。救急外来を動悸で受診した場合、実際にどのくらいの割合で治療が必要になっているのでしょうか。

ヨーロッパの1つの大学病院の救急外来で、約半年間に動悸を訴えて受診した215人を対象にした研究では、80人(37%)が、救急外来にいる間か、その後の入院中に、薬や医療機器、電気的除細動(心臓に電気ショックを与えて、乱れたリズムを正常に戻す処置)などによる治療を必要としました。この研究では、こうした動悸を「重篤な原因による動悸」と定義しています。
残りの135人(63%)は、そうした治療を必要としませんでした。
動悸で救急外来を受診した場合、その場で治療が必要になるのはおよそ3人に1人程度で、残りの3人に2人はそうではなかった、ということになります。

治療が必要だった80人の原因の内訳は下の表のとおりです。
心房細動・心房粗動が45人(56%)ともっとも多く、発作性上室頻拍が22人(27%)、命に関わる心室頻拍は5人(6%)にとどまりました。残る8人(10%)は、急性心不全や肺塞栓症、急激な血圧上昇といった他の病気の影響で心拍数が上がっていた状態(状況による洞性頻拍)でした。
「不整脈」とひとくくりにいっても中身は幅広く、緊急性の高い心室頻拍は、動悸で受診した215人全体でみると2%程度にとどまっていたことになります。

分類人数割合
治療が必要だった(重篤な原因)小計80人37%
— 心房細動・心房粗動45人80人中56%
— 発作性上室頻拍22人80人中27%
— 心室頻拍5人80人中6%
— 状況による洞性頻拍(急性心不全・肺塞栓症・急性高血圧など)8人80人中10%
治療は必要なかった135人63%
出典: Balen F, et al. CJC Open. 2026 Jul;8(7):796-9. PMID: 42483009. のデータをもとに作成

一方、心臓の不整脈以外にも、動悸の原因になりうるものがあります。

1990年代に、米国の大学病院で一般内科・循環器外来を受診した190人を1年間追跡した研究(救急外来ではなく、外来を受診した患者が対象です)では、原因が特定できた84%のうち、心臓が原因だったのは43%、不安やパニック発作といった精神的な要因によるものが31%を占めていました。
対象となった患者の集団や時代が異なるため単純な比較はできませんが、動悸の原因は不整脈だけに限らず、心臓以外の要因も少なくない、という点は共通していそうです。

心電図診断とタイミングの壁

なぜ、動悸の原因を突き止めるのはそう簡単ではないのでしょうか。理由の一つは、不整脈の多くが「発作性」――ある瞬間だけ起こり、また自然におさまる――という性質を持っていることにあります。

動悸を感じてから病院にたどり着くまでの間に不整脈がおさまってしまえば、その場でとった心電図は正常に映ります。つまり、「病院で心電図をとったら異常なしだった」という結果だけでは、不整脈がなかったと言い切れるわけではありません。

このため、動悸を繰り返す場合には、1回の心電図だけでなく、日常生活の中で長時間心電図を記録する検査(ホルター心電図など)が必要になることがあります。次にお伝えするSmart watchも、この「症状が出ている瞬間をどう捉えるか」という課題に対する、一つの答えになり得るものです。

Smart watchによる動悸の記録

近年、Apple WatchをはじめとするSmart watchには、脈の乱れを検知して知らせてくれる機能が搭載されるようになりました。この機能はどの程度あてになるのでしょうか。

40万人以上が参加した大規模な研究(Apple Heart Study)では、「脈が不規則です」という通知を受け取ったのは参加者の0.52%(2,161/419,297人)でした。通知を受けた人には心電図を記録するパッチ型の機器を着けてもらい、本当に心房細動が起きているかを確かめています。

確かめ方対象心房細動が確認された人
通知が出たその瞬間の心電図を見るパッチを着けている最中に通知が出た86人72人(84%)
通知の後日にパッチを着けて探す(通知から平均13日後に着け始め、最長7日間)記録を解析できた450人153人(34%)
出典: Perez MV, et al. N Engl J Med. 2019 Nov;381(20):1909-17. PMID: 31722151. のデータをもとに作成

通知が出たその瞬間の心電図では、100人のうち84人で本当に心房細動が起きていました。一方、後日パッチを着けて探した場合に見つかったのは34%にとどまります。
研究チームは、心房細動は出たり消えたりすることが多く、パッチを着けたころにはおさまっていた可能性があるため、後日見つからなかったからといって通知が誤りだったとはいえないと述べています。ここでも、症状が出ている瞬間を捉えられるかどうかが結果を左右しています。

より大規模な別の研究(Fitbit Heart Study、45万人以上が参加)でも、通知が繰り返し出た場合に実際に心房細動が起きていた割合は98.2%と報告されており、同様の傾向がみられています。

こうした数字だけを見ると、Smart watchはかなり頼りになるように思えます。ただし、2つの注意点があります。
1つは、通知が出たときに当たっている割合が高くても、逆にSmart watchが不整脈を見逃してしまう割合(感度)がどの程度かは、まだよく分かっていないという点です。
もう1つは、Smart watchの通知はあくまで「疑い」の段階にとどまり、確定診断には医療機関での心電図検査が必要になるという点です。Smart watchは、症状が出た瞬間の記録を残す手段として役立ちますが、受診の代わりになるものではありません。

こうした症状があるときは、早めの受診がすすめられる

下記に該当する場合、早めの受診がすすめられます。

  • 動悸とともに気を失った(失神)ことがある。
  • 心臓の病気にかかったことがある。
  • 年齢が50歳以上である。
  • 脈が1分間に100回を超える状態が続いている。

先ほどの救急外来の研究では、この4つのうち1つでも当てはまる場合、治療が必要な原因が見つかる可能性が高くなることが分かっています。逆に、この4つがいずれも当てはまらない場合は、治療が必要な原因である可能性は低いとされています(この見分け方の精度は、感度96%)。

ただし、これで安心とは言い切れません。同じ研究で、4つの項目がいずれも当てはまらなかった人のうち6%は、実際には治療が必要な心房細動などの不整脈が見つかっています。逆に、これらの症状が1つでもあるからといって、必ず治療が必要な原因があるとは限りません。先述のとおり、救急外来を受診した人の63%は治療を必要としませんでした。つまり、これらの症状は治療が必要な原因の可能性を考えるうえでの目安にはなりますが、その有無だけで「大丈夫」「危険」と判断できるものではありません。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • Balen F, et al. CJC Open. 2026 Jul;8(7):796-9. PMID: 42483009.
  • Weber BE, Kapoor WN. Am J Med. 1996 Feb;100(2):138-48. PMID: 8629647.
  • Francisco-Pascual J, et al. World J Cardiol. 2021 Nov;13(11):608-27. PMID: 34909127.
  • Perez MV, et al. N Engl J Med. 2019 Nov;381(20):1909-17. PMID: 31722151.
  • Lubitz SA, et al. Circulation. 2022 Nov;146(19):1415-24. PMID: 36148649.

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次