貧血を指摘されたら — 出血・栄養不足・ほかの病気の3つの原因

立ち上がった瞬間にふらっとして、「貧血かな」と思ったことはないでしょうか。あるいは、健康診断の結果に「貧血」と書かれていて、どうすればよいか迷っている方もいるかもしれません。

日常会話の「貧血」と、医師が使う「貧血」は、同じものを指していないことがよくあります。この記事では、貧血という言葉の意味を数値から整理し、原因として何が多いのか、どこに気づけばよいのかをまとめます。

この記事の要点

  • WHOの貧血の基準は、ヘモグロビン男性 13.0 g/dL 未満、妊娠していない女性 12.0 g/dL 未満。
  • 立ちくらみは脳の血流が一時的に下がって起こり、貧血そのものとは別。
  • 原因は大きく「どこかからの出血」「栄養素の不足・偏り」「別の病気の影響」の3つ。
  • 閉経前の女性は月経、男性と閉経後の女性は胃腸からの出血が多い。
  • ビタミンB12の不足は、貧血がなくても手足のしびれなど神経の症状を起こしうる。
  • 【受診の目安】健診などで貧血を指摘されたら、とくに男性と閉経後の女性は、原因を調べることがすすめられている。

受診するときに医師に伝えるべきこと

  • 健診のヘモグロビンの推移と、いつから低いと言われているか。
  • 出血の手がかり。便の色、痔や鼻血、(女性の場合)月経の量と生活への影響、子宮筋腫と言われたことがあるか。
  • 食事の偏りとお酒の量、胃や腸の手術歴。
  • 服用中の薬(痛み止め、血液をサラサラにする薬、胃酸を抑える薬など)。
  • 手足のしびれ、ふらつき、物忘れの有無。

受診先の目安

まずは内科で相談できます。消化器内科や、月経の量が多い場合は婦人科も選択肢になります。

※急ぎではない受診を考えるときの目安です。救急を要する場合は含みません。

この記事だけで自己判断をしないでください。貧血の原因はさまざまで、実際の判断には問診や検査が必要です。服用中の薬は、貧血の原因になりうるものでも、自己判断でやめずに医師に相談してください。

詳しい解説

ここからは、上のまとめの根拠となるデータを順を追って説明します。

目次

数値で決まる「貧血」

この章では、医学でいう「貧血」が何を指すのかを説明します。

医学でいう貧血は、血液検査の数値で決まります。血液中のヘモグロビン(赤血球の中で酸素を運ぶたんぱく質)の濃度が、基準値を下回った状態です。英国消化器病学会のガイドラインは、世界保健機関(WHO)の基準を次のように紹介しています。

  • 15歳を超える男性: 13.0 g/dL 未満
  • 15歳を超える妊娠していない女性: 12.0 g/dL 未満
  • 妊娠中(妊娠中期以降)の女性: 11.0 g/dL 未満

健診の結果票では、「血色素量」「ヘモグロビン」「Hb」と書かれた欄がこれにあたります。基準値は検査施設によって少しずつ違うので、結果票に書かれた基準範囲とあわせて見てください。貧血かどうかは「ふらつくかどうか」ではなく、この数値で決まります。

東京の1つの病院で健診を受けた20〜49歳の女性10,598人のデータを調べた研究では、17.1%がヘモグロビン 12.0 g/dL 未満でした。さらに、この1,811人のうち1,721人は、問診票で貧血があると申告していませんでした。1施設の、ある時点だけを調べた研究ですが、貧血は数値で確かめないと気づきにくいことがうかがえます。

「立ちくらみ」と貧血の違い

この章では、日常で「貧血」と呼ばれがちな立ちくらみが、医学的には何なのかを説明します。

立ちくらみの正体

人が立ち上がると、500〜1,000 mL の血液が脚やお腹のほうへ移動し、心臓に戻る血液が一時的に減ります。ふだんは血管が縮むなどの調整がすぐに働きますが、これが追いつかないと脳への血流が下がり、ふらっとする、目の前が暗くなる、ひどいときには気を失う(失神)ことがあります。立ち上がったあとに血圧が大きく下がるこの状態を、起立性低血圧といいます。高齢者の起立性低血圧についての総説では、原因として薬(一部の抗うつ薬や血圧の薬、睡眠薬など)が多く、お酒の飲みすぎも関連するとされています。

日常会話では、こうした立ちくらみを「貧血」や「脳貧血」と呼ぶことがあります。しかし、ここで起きているのは脳への血流が一時的に下がることで、血液中のヘモグロビンが足りないこととは別の現象です。

立ちくらみやめまいの感じ方と、それが何を意味するかは、めまいの記事で詳しく整理しています。

貧血で現れる症状

英国消化器病学会のガイドラインは、貧血の表れとして息切れやだるさを挙げています。鉄が足りないことによる貧血では、氷を無性に食べたくなる、爪が反り返る(スプーンのような形になる)、口の端が切れるといった特徴が出ることもあります。

だるさは貧血だけで起こるものではありません。疲れの原因として何が多いかは、疲れが取れないときの記事にまとめています。

ここで注意したいのは、「立ちくらみ=貧血」ではないものの、「立ちくらみと貧血は無関係」でもないことです。先の総説は、貧血が起立性低血圧を引き起こしたり悪化させたりする要因になりうるとしています。立ちくらみが続くときに、血液検査で貧血がないかを確かめておく意味はあると考えられます。

貧血の原因の3分類

この章では、貧血がなぜ起こるのかを、大きく3つに分けて説明します。

貧血の3つの原因を並べた図。出血(月経の量が多い場合、胃や腸からの出血)、栄養素の不足・偏り(鉄、ビタミンB12、葉酸)、別の病気の影響(感染症や関節リウマチなどの炎症、腎臓の病気)の3つ。
出典: Snook J, et al. Gut. 2021 Nov;70(11):2030-51. PMID: 34497146./Socha DS, et al. Cleve Clin J Med. 2020 Mar;87(3):153-64. PMID: 32127439./Weiss G, et al. Blood. 2019 Jan;133(1):40-50. PMID: 30401705. をもとに作成

医師が使う分類は細かく分かれていますが、受診する側はこの3つを押さえておけば十分です。

どこかからの出血

血液には鉄が多く含まれているため、出血が続くと鉄が失われ、貧血になります。英国消化器病学会のガイドラインによれば、閉経前の女性では月経による出血が原因として多く、成人の男性と閉経後の女性では胃や腸からの、少しずつ続く出血が多いとされています。

月経の量が多い状態を、過多月経といいます。1回の月経で出血の合計が 80 mL を超える状態と定義されますが、実際に量を測るのは難しいため、英国の公的機関(NICE)は「出血量が、体や生活、気持ちの面で生活の質に影響している状態」も過多月経に含めています。過多月経は生殖年齢の女性の18〜38%にみられると推定されています。先の日本の研究では、35歳以上の女性で、子宮筋腫があると申告した人は貧血が多いという関連もみられました。

一方、男性と閉経後の女性の鉄欠乏性貧血(鉄が足りないために起こる貧血)では、約3分の1に原因となる病気が見つかり、その多くは胃や腸の病気です。がんが見つかるのは8〜10%で、多くの検査では大きな異常は見つかりません。ただ、鉄欠乏性貧血が大腸がんや胃がんの最初のサインになることがあるため、ガイドラインはこのグループでは胃と大腸の内視鏡検査を基本としています。しかも、お腹の症状があるかどうかは、胃や腸の病気の有無や場所の手がかりにならないとされています。

栄養素の不足・偏り

赤血球を作るには、材料となる鉄と、ビタミンB12、葉酸が必要です。

鉄が足りなくなる背景には、食事からの摂取が少ないこと(動物性の食品を避ける食事など)、成長期や妊娠で必要量が増えること、胃の手術や胃酸を抑える薬の長期使用で吸収が落ちることがあります。

注意したいのは、鉄の不足は貧血より先に始まることです。英国の総説によれば、貧血のない鉄不足は、鉄欠乏性貧血の少なくとも2倍多いとされ、貧血は鉄不足の「遅い段階」の表れだと述べられています。ヘモグロビンが基準内でも、だるさが出ることがあります。

ビタミンB12と葉酸は、どちらが足りなくても、同じような貧血(大きく未熟な赤血球が出る貧血)を起こします。違いは次の表のとおりです。

ビタミンB12葉酸
多く含む食品ほぼ動物性の食品に限られる緑の葉物野菜、果物、ナッツ、卵、肉
不足しやすい背景動物性の食品が少ない食事、胃の手術、萎縮性胃炎、一部の薬葉酸の少ない食事、お酒の飲みすぎ、小腸の病気、妊娠
出典: National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Vitamin B12 deficiency in over 16s: diagnosis and management. NICE guideline NG239. 2024. PMID: 38713783./Socha DS, et al. Cleve Clin J Med. 2020 Mar;87(3):153-64. PMID: 32127439. をもとに作成

ビタミンB12の不足では、手足のしびれ、ふらつき、物忘れといった神経の症状が代表的な症状の1つとされ、しかも貧血がなくても起こりうることが知られています。背景になりやすいものも違い、ビタミンB12では胃の手術歴、葉酸ではお酒の量が、医師に伝える意味のある情報になります。なお、ビタミンB12は体内のたくわえが数年もつため、食事だけが原因で不足することは葉酸より少ないとされています。

別の病気の影響

3つ目は、ほかの病気の影響で起こる貧血です。炎症を伴う病気に伴う貧血は、鉄欠乏性貧血に次いで世界で2番目に多い貧血とされます。感染症、関節リウマチなどの免疫の病気、がん、慢性腎臓病、心不全などで起こり、多くは軽度から中等度です。

この貧血では、だるさなどの症状がもとの病気のせいだと受け止められ、貧血として扱われにくいことが指摘されています。そのうえ、炎症に伴う貧血がある人の20〜85%は、本当の鉄不足も併せ持っているとされ、その場合は出血がないかを調べる必要があります。

出血と栄養不足に早く気づくための手がかり

この章では、ゆっくり進む貧血に、どこで気づけるかをまとめます。最初の章で見たように、貧血は数値で確かめないと気づきにくいものです。

健診の数値の推移

1回の値だけでなく、過去の健診と並べて見ることが手がかりになります。英国消化器病学会のガイドラインは、新たに見つかった鉄欠乏性貧血で、はっきりした説明がつかない場合は、胃や腸を急いで調べることを考えるべきだとしています。以前からの値か、最近下がってきたのかは、医師にとって大事な情報です。

月経の量と便の色

月経については、先の過多月経の定義のとおり、生活に影響しているかどうかが目安になります。

便については、黒い便が手がかりになります。胃や十二指腸からの出血は、黒い便として現れることがあるためです。急に黒い便が出た場合は、次の章を読んでください。

「年のせい」「持病のせい」で終わらせない理由

高齢者の貧血についての総説によれば、地域で暮らす高齢者の12%、80歳を超える人では25%超が貧血にあたります。原因はおおむね、栄養素の不足(主に鉄)、炎症や腎臓病などに伴うもの、原因がはっきりしないもの、の3つに分かれるとされています。

総説の著者は、高齢者の貧血も原因を調べ、可能なら治療すべきだとしています。「原因がはっきりしない」とされてきた例の中には、十分に調べられていなかったものが含まれていた可能性も指摘されています。前の章で見たように、持病がある人に鉄不足が隠れていることもあります。

すぐに救急車を呼んでください

ここまでは、ゆっくり進む貧血の話でした。それとは別に、吐血や黒い便のように、待ってはいけない出血があります。

すぐに救急車を呼んでください。

  • 血を吐く。
  • 便に血が混ざる、または、真っ黒い便が出る。
  • (高齢者)急にふらつき、立っていられない。

厚生労働省は、消防庁の「救急車利用リーフレット」をもとに、これらを「すぐに救急車を呼びましょう」という症状に挙げています(3つ目は高齢者向けの一覧にある項目です)。

食道・胃・十二指腸からの出血は、吐血や黒い便として現れ、出血が多く速い場合は赤い血便になることもあります。英国の総説によれば、こうした出血は、血が目に見えるだけでなく、失神、だるさ、息切れといった、血液を失ったことによる症状で現れることもあります。先の章で、立ちくらみは貧血そのものとは別の現象だと書きましたが、吐血や黒い便とともに立ちくらみや失神が起きているときは、急な出血の表れであることがあります。

救急車を呼ぶか迷ったときの相談先は、救急車利用の記事にまとめています。便潜血検査で陽性と言われた場合については、便潜血陽性の記事で説明しています。

こうした症状があるときは、早めの受診がすすめられる

以下は、医師向けの診療ガイドラインが、原因を調べることをすすめている状況です。

下記に該当する場合、早めの受診がすすめられます。

  • 健診などで貧血を指摘された。とくに男性、閉経後の女性。
  • 月経の量が多く、生活に影響している。
  • 手足のしびれ、ふらつき、物忘れが続いている。

1つ目は、英国消化器病学会のガイドラインが、男性と閉経後の女性の鉄欠乏性貧血では胃や腸の検査を基本としていることにもとづいています。2つ目は過多月経の定義にもとづいています。3つ目は、NICE のガイドラインがビタミンB12不足のよくある症状として挙げ、胃の手術歴や食事の偏りなどの背景があれば検査をすすめているものです。

これらにあてはまるからといって、重い病気があるとは限りません。男性と閉経後の女性の鉄欠乏性貧血でも、原因となる病気が見つかるのは約3分の1で、がんは8〜10%です。

反対に、あてはまるものがないから大丈夫、ということでもありません。お腹の症状があるかどうかは、胃や腸の病気の手がかりにならないとされています。また、先の日本の研究のように、貧血があっても本人が気づいていないことは珍しくありません。

出典

出典の選び方については編集方針をご覧ください。

  • Snook J, et al. Gut. 2021 Nov;70(11):2030-51. PMID: 34497146.
  • Hisa K, et al. Sci Rep. 2019 Nov;9(1):17048. PMID: 31745104.
  • Dani M, et al. Clin Med (Lond). 2021 May;21(3):e275-82. PMID: 34001585.
  • Mansour D, et al. Adv Ther. 2021 Jan;38(1):201-25. PMID: 33247314.
  • Al-Naseem A, et al. Clin Med (Lond). 2021 Mar;21(2):107-13. PMID: 33762368.
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Vitamin B12 deficiency in over 16s: diagnosis and management. NICE guideline NG239. 2024. PMID: 38713783.
  • Socha DS, et al. Cleve Clin J Med. 2020 Mar;87(3):153-64. PMID: 32127439.
  • Weiss G, et al. Blood. 2019 Jan;133(1):40-50. PMID: 30401705.
  • Girelli D, et al. Hemasphere. 2018 Jun;2(3):e40. PMID: 31723768.
  • 厚生労働省. こんな時は迷わず119へ. 上手な医療のかかり方.jp. https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/urgency.html
  • Orpen-Palmer J, et al. BMJ Med. 2022 Sep;1(1):e000202. PMID: 36936565.

本記事の内容は一般的な医学情報であり、個別の診断や治療の助言ではありません。免責事項もあわせてご確認ください。

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